その当たり前が、問題だとしたら

その「常識」、本当に正しいですか?

経営をしていると、あたり前のように語られる言葉がいくつもあります。
「売上や利益を伸ばすことが最優先だ」
「社員の主体性を引き出せ」
「リーダーは先頭に立つものだ」
「目標は明確にSMARTに設定すべきだ」

これらは、経営の世界で長らく「常識」とされてきたことです。
でも、ここで立ち止まって考えてみてください。

その常識、本当に正しいのでしょうか?
もしかすると、「常識が違っている」のかもしれません。

この記事では、4つの視点から「常識を疑う」問題提起をお届けします。

1.売上や利益 ― 数字を追うほど顧客は離れていく

経営者にとって、売上や利益は生命線。だから数字を追いかけるのは当然だと考えますよね。

でも、数字に執着するほど、逆に数字が逃げていくことはないでしょうか?

営業が「契約を取ること」を最優先にすると、顧客の声を聴くよりもクロージングが先になる。利益率を重視するあまり、サービスやサポートの質を削ってしまう。短期的には数字が立つかもしれませんが、その積み重ねで顧客の信頼は確実に失われていきます。

本来、売上や利益は「目的」ではなく「結果」です。
顧客に本当に価値を届けたからこそ、副産物として数字がついてくる。
それなのに、結果を目的化してしまった瞬間に、経営はズレ始めるのです。

「売上や利益を目的にする限り、数字は逃げていく」――これが逆説の真実です。

2.社員の主体性 ― 主体性は「引き出す」ものではない

「社員が主体的に動いてくれない」と嘆く経営者は多いでしょう。そこで研修を行い、権限を委譲し、制度を整える。これも一見正しい打ち手に見えます。

しかし実際には、社員の主体性は「育てるもの」ではありません。もっと正確に言えば、もともと人は主体性を持っているのです。

問題は、組織がそれを「奪っている」こと。
細かすぎるKPI管理、重すぎる承認フロー、チェックリスト漬けの仕組み…。
これらは表向き「効率化」「標準化」として導入されますが、裏では社員の考える力や挑戦心を奪ってしまっています。

だから本当に必要なのは、「主体性を引き出す」ことではなく、「主体性を奪っている仕組みをやめる」ことなのです。

3.リーダーシップとマネジメント ― 「何もしない勇気」

「リーダーは先頭に立て」「率先垂範せよ」――これも経営の現場でよく聞く言葉です。
けれど、その姿勢が社員の自律を止めてはいないでしょうか。

リーダーがすべてを決め、動き、導けば導くほど、社員は「待ち」の姿勢になります。
マネジメントが仕組みを細かく整備すればするほど、現場は思考をやめ、指示待ちになります。

つまり、「リーダーが動くほど、メンバーは動かなくなる」のです。

経営者に必要なのは、むしろ「何もしない勇気」。
社員に任せきる覚悟を持ち、失敗をも受け止める。そうして初めて、社員は自ら考え、力を発揮します。

マネジメントも同じです。管理を強めることは短期的な成果にはつながりますが、長期的には人の成長を奪います。
リーダーの本当の役割は、「何をするか」ではなく、「何をしないかを決めること」なのです。

4.目標の捉え方 ― 目標は「未来の仮説」

「目標はSMARTに」「高く明確に」――これもまたビジネスの常識です。

ですが、目標が数字で区切られると、人は「そこまでやればいい」と成長を止めてしまいます。
そして、未達になれば「失敗」とされ、挑戦する意欲を削がれる。

本来、目標とは「未来に向けた仮説」でしかありません。
「この道を進めば、こんな成果にたどり着くのではないか?」という仮説。だからこそ、達成できなかったら修正すればいいし、達成してもさらに更新すればいいのです。

経営者が社員に伝えるべきは、**「目標は達成するためにあるのではなく、挑戦を続けるためにある」**という考え方です。

おわりに:常識を疑う勇気が未来を切り拓く

売上や利益、社員の主体性、リーダーシップとマネジメント、そして目標。
どれも経営にとって避けては通れないテーマです。
しかし、そのテーマに隠れている「常識」に疑問を持つことで、組織は大きく変わり始めます。

数字を追うほど顧客が離れ、仕組みを増やすほど主体性が潰れ、リーダーが動くほどメンバーは動かなくなり、目標を固めるほど挑戦は止まる。

だからこそ、もう一度問い直してみましょう。
「その常識、本当に正しいのか?」

経営者の仕事は、常識に従うことではなく、常識を疑い、新しい道をつくることです。
逆説にこそ、未来を切り拓くヒントがあります。

社員のモチベーションを意識したら、上がらない!

モチベーションは“待遇”だけでは上がらない

「社員のモチベーションを高めたい」と考えると、まず思い浮かぶのは「給与を上げる」「福利厚生を充実させる」といった待遇面の改善かもしれません。もちろん、待遇が劣悪であればモチベーションは確実に下がり、離職にもつながります。

しかし、一定の水準を満たしている場合、それ以上の待遇改善はモチベーションを“上げる”ことには直結しません。むしろ、給与や手当を一度上げてしまうと、それが「当たり前」となり、次第に効果は薄れ、長い目で見ると“下がっていく”という現象すら起こります。

中小企業にとって、待遇や給与の抜本的な見直しには限界があります。大企業のように潤沢な資金を投じるのは難しく、同じ土俵で戦うのではなく、“別の方法”で社員のやる気を引き出す必要があります。

では、その「別の方法」とは何か?

答えは、社員が日々の業務の中で「自分の仕事が誰かの役に立っている」と実感し、「小さな成功体験」を積み重ねられるような環境づくりにあります。

日常の中にモチベーションを生む仕組みを作るには?

社員のモチベーションを高めるには、目的意識をベースにした行動計画と、日々の業務を通じたフィードバック文化を整えることが重要です。

1.行動計画は“目的”と“スモールステップ”の設計が鍵

モチベーションは、仕事の目的が明確になることで初めて本質的に湧いてくるものです。「この仕事は、誰に対して、どんな価値を提供しているのか」「自分の役割が社会にどうつながっているのか」という“目的の可視化”が重要です。

たとえば、以下のような問いかけが有効です:

  • この業務は、どの顧客に、どんな価値を提供しているか?
  • この作業が完了すると、社内の誰の業務がスムーズになるか?
  • どのようにして社会に貢献しているのか?

さらに、この目的を達成するために必要なのが“スモールステップ”の設計です。

  • 大きな目標を、意味ある小さなステップに分解する
  • 進捗を見える化し、日々の達成を確認できる仕組みを作る
  • 小さな行動が積み重なり、最終的にどんな貢献につながるかを伝える

たとえば、営業チームなら「今月の商談10件達成」という目標の前に、「顧客リストを10件整理する」「2件の既存顧客に改善提案を送る」といった具体的なステップを設け、それを毎週確認する。これにより、日々の努力が最終的な成果と貢献に結びついていると実感できます。

目的が明確になり、小さな成功が日々可視化されると、社員は「自分の仕事には意味がある」と感じ、自律的に動くようになります。

2.日常業務におけるフィードバック文化

フィードバックは、上司の「後回しにしてもいい業務」ではありません。むしろ、「部下の成長とモチベーションを引き出す」という観点では、最優先で取り組むべき仕事の一つです。日々の業務の中で、部下に対するフィードバックを丁寧に、かつ継続的に行うことで、組織全体のパフォーマンスにも直結します。

社員が「今の自分の仕事ぶり」を把握し、前向きな行動を継続するためには、上司からのリアルタイムなフィードバックが不可欠です。

  • 良い行動に対しては具体的な言葉で即時に褒める
  • 改善点についても“責める”のではなく“次への期待”として伝える
  • フィードバックの機会を制度化(週次ミーティング、1on1面談など)
  • フィードバックの質を高めるために、上司自身もトレーニングや学習を継続する

たとえば、製造現場で小さな改善を行った社員に対して、「この改善でラインの作業効率が5%上がったよ。ありがとう」と伝えることで、その行動が意味あるものだったと認識され、次の挑戦への意欲にもつながります。

上司にとって「部下の成果を見つけ、適切に評価し、伝える」ことは単なる管理業務ではなく、リーダーシップの本質とも言えるのです。

実践企業の事例に学ぶ

海外では、ハーバード・ビジネス・スクールが行った「小さな勝利(small wins)」の研究が有名です。日々の進歩を感じられる職場では、社員のモチベーションや創造性、生産性が向上することがわかっています。

日本でも、ある中小IT企業では、毎週の定例会議で「今週、誰がどのように貢献したか」を共有する時間を設けたことで、チーム内の信頼関係が深まり、退職率が減少したという報告があります。

また、製造業の現場で1on1面談を導入した企業では、上司と部下のコミュニケーションが密になり、小さな問題が早期に解決されるようになった結果、生産性が向上したという例もあります。

まとめ:今日から始める3つの行動

待遇や給与の改善が難しい状況でも、社員のモチベーションを高める方法はあります。その鍵は、

  • 社員が「誰かの役に立っている」と実感できること
  • 日常業務の中で「小さな成功体験」を得られること
  • そして「自分の仕事には目的がある」と理解できること

にあります。

今日からでも始められる、具体的なアクションを3つご紹介します。

  1. 今週の定例ミーティングで、貢献事例を1人1件共有する時間を設ける
  2. 部下に対して、週に1回は具体的なフィードバックを行う(上司の優先業務としてスケジュールに組み込む)
  3. 目標設定の際に、「この仕事は誰にどんな価値を与えるのか?」を問いかけ、スモールステップで進捗を見える化する

モチベーションは与えるものではなく、環境の中で自然に生まれるものです。リーダーの意識と行動の変化が、社員の内発的なやる気を引き出し、組織全体を前向きに変えていく第一歩となります。

部下の課題は、あなたの課題ではない

「“当たり前”だからこそ見落とす――課題の分離が部下の主体性に与えるインパクトとは」

部下にはもっと自発的に動いてほしい。
もっと自分で考え、挑戦し、責任を持って行動してほしい。
そう願うリーダーやマネージャーは少なくありません。

むしろ、それが当たり前の考え方であり、多くの企業でも「主体性のある人材を育てよう」と掲げられています。

しかし、実際の現場を見渡すとどうでしょうか。

「この件、君どう思う?」と一応は部下に意見を聞きながら、最終的な判断はいつも自分が下す。
「任せる」と言いながら、部下がやろうとすると気になって口を出してしまう。
「うまくいかなかったら自分の責任になるから…」と、つい手を差し伸べてしまう。

――こんな場面、思い当たることはありませんか?

実はこれ、部下の成長を願っているはずのリーダー自身が、無意識のうちに部下の課題まで引き受けてしまっている状態です。

そして、この状態が続くと、部下は「自分で考える必要がない」と感じ、ますます指示待ち・依存型の人材になってしまいます。

一見「良かれと思って」やっている行動が、実は主体性を奪ってしまっている。
そして、その背景には、「課題の分離」ができていないというリーダー側の構造的な問題があるのです。

本記事では、コーチングやマネジメントの根幹を支える「課題の分離」の視点から、なぜ部下の主体性が育たないのか、そしてどうすれば変えられるのかを深掘りしていきます。

「相手のために」と思ってやってきたことを、少し見直すことで、部下の行動は劇的に変わります。その鍵は、実は“自分がどう関わるか”にあるのです。

なぜ「課題の分離」が不可欠なのか?

「課題の分離」とは、「最終的にその行動の結果を引き受けるのは誰か」という視点をもって、課題を「自分の課題」と「相手の課題」に分けることです。

この考え方の源流には、心理学や哲学の視点に通じる「責任の所在」の問題があります。特にコーチングや人材育成においては、行動の主体と結果の責任を明確にすることが成果を左右します。

課題を分離することで、「誰が何を担うのか」が明確になり、部下は自ら考え、実行する主体へと成長します。

逆に、課題が未分離のままだと、部下は自分で考えようとせず「待ち」の姿勢になりやすく、上司の介入が増えるほどに、自律性が失われていきます。

現場で陥りがちな「課題の分離不足」

判断の先回りで主体性を奪う上司

「どう思う?」と聞くものの、判断を聞かずに自分で決めてしまう。そして、部下は意見を出す機会を持てなくなり、徐々に「自分は何も決められない」と感じてしまう。このような状況は、部下の判断を上司が奪ってしまう“課題の侵食”です。

“場づくり”を上司の課題と認識しない

会議や1on1で意見が出ないとき、上司は「部下が消極的」と見なしがちです。しかし、実際には、部下が安心して話せる「場」をつくることこそ、上司側の課題です。

意見が出ないのは、上司の働きかけや雰囲気づくりが不足していることに起因している場合が多いのです。

部下の課題を“代行”してしまう構図

「やっておいて」と依頼したタスクを、部下が取り掛かる前に上司が手を出してしまう。あるいは、完了前に口を出して軌道修正してしまう。これでは、部下は「自分がやる意味」を見出せなくなります。結果として、行動も成長も止まってしまうのです。

今日からできる“課題の分離”アクションプラン

「場づくり」を自分の課題として認識する

1on1や会議では、上司がまず質問を投げ、沈黙を受け入れる姿勢を示すことが重要です。発言しやすい雰囲気を意識的に設計することで、部下の思考と対話が動き始めます。

課題を具体化し、分けて共有する

たとえば、「提案資料の改善はあなたの担当」「優先順位の調整は私がフォローする」といった形で、業務の中で役割と責任を言語化し、お互いの行動領域を明確にして共有します。

振り返りの主導権を部下に持たせる

業務終了後やプロジェクトの節目に、「なぜその判断をしたのか?」「何を学んだのか?」を部下自身に語らせる場を設けます。上司はフィードバック役に徹することで、学習と成長の循環が生まれます。

まとめ:今日から実践できる「課題の分離」の第一歩

リーダーとして、部下に成長してほしい、主体的に動いてほしい。
そう願うのは当然のことですし、それ自体は間違っていません。

しかし、部下の主体性は「願うだけ」で育つものではありません。

むしろ、その芽を摘んでしまっているのは、他でもない私たちリーダー自身であることに気づくことが、最初の一歩です。

コーチングの本質とは、「相手を変えること」ではなく、自分の関わり方を変えることで、相手が自ら変わる“環境”をつくること。
そのために必要なのが、「課題の分離」という視点です。

今すぐ始められる、3つの小さなアクション

  1. 「これは誰の課題か?」を自問する習慣を持つ
  2. 部下に「任せたこと」は、任せきる勇気を持つ
  3. 週1回、1on1などで「課題の分離マップ」を書いてみる

主体性のある人材を育てたいなら、まずはリーダーが“手放す”こと。
課題の分離は、単なる理論ではなく、リーダー自身が変わる覚悟を持つ実践の入り口です。

今日からぜひ、あなたのリーダーシップにこの視点を取り入れてみてください。
きっと、部下との関係性も、組織の動き方も、少しずつ変わっていくはずです。

なぜ、上司は、部下のコーチングができないのか

企業内でコーチングを効果的に行い、気持ちよく成果を引き出すための方法

成果を早く出したい…成果を出せる人材に育ってほしい…。多くの経営者やマネジャーが、そんな「相手を変えたい」という思いに突き動かされ、つい部下にアドバイスや圧力をかけてしまいがちです。しかしこの「変えてやろう」とする姿勢こそが、コーチングを遠ざける最大の障害になっているのです。

コミュニケーションが圧力に変わり、信頼が揺らぎ、結果的に成果も成長も遠ざかってしまう。このジレンマに直面した時にこそ、「相手の成長は本人が主体的に選択してこそ、成果は生まれる」という本質的な視点が求められます。

成果と成長~企業のジレンマを乗り越えるために

企業としては、「すぐ結果がほしい」「部下には早く成長してほしい」という期待があります。しかし、その一方で、コーチングに必要な「待つこと」「対話に時間を使うこと」は、短期成果を求める構造においては後回しにされやすいのが現実です。

このジレンマを実感するのが、中小製造業のA社の事例です。A社長は、「もっとスピード上げてくれ」と部下に強く求め、具体的な指示と細かい承認作業を続けた結果、一時的に業績は上がったように見えました。しかしじわじわと部下からは「指示を待つだけの人たち」が増えてしまいました。そこで「あなた自身ならどう変えたい?」と質問に変えてみると、部下から自発的な改善案が出てきて、品質も納期も同時に向上したのです。

短期成果を追うあまり、本質的な成長を犠牲にしてしまうことのないよう、「成果と成長を両立させるための対話」をいかに組織に定着させるかが、今まさに求められています。

「相手を変える」の罠:失敗の原因と見直し

「もっとやる気を出して」「考え方を改めてほしい」~と強く願うとき、つい圧が対話にのしかかってしまいます。この圧が強まると、部下は「やらされ感」や「拒否感」を抱いてしまい、信頼関係が揺らぎ、結果として学習も停滞してしまうことになります。

心理学的には、自己決定理論(Self-Determination Theory, Deci & Ryan)が示すように、人は「自分で選び、意思を持って行動するときにこそ、最もパフォーマンスを発揮しやすい」と説かれています。

この視点を持つことで、「相手を変える」という発想を「相手が自ら変わりたくなる環境を作る」というコーチングの本来の姿勢に変えていくことが重要な視点になります。

何もしない勇気の本質:アドバイスは不要、立ち止まって聞く力

多くのマネジャーは、自らの知識や経験を用いて部下を指導することこそ、マネジメントの任務であり役割だと考えがちです。

たしかに、経験前提のアドバイスや判断力が必要な場面も少なくありません。しかし、コーチングにおいてはめむしろ「自ら動かずに部下に考えさせる」ことのほうが優先されます。

これは、一見すると「何もしない上司」に見えることもあるかもしれません。実際、周囲からは「放件している」「部下任せだ」と評されるリスクもあるでしょう。

しかしここにこそ、勇気が必要なのです。

相手を信じ、やる気と成長力を信頼して「話さず」「口出ししない」。上司の存在感や有用感を控えることは、ある意味「我慢」を要する行為でもあります。

これは放置ではありません。「見守る」「相談を待つ」「真に助けが必要なときにだけ手を展べる」という、高度なマネジメント技術です。

「何もしない勇気」は、何もしないことを行動で選択し続ける、最も難易度の高いリーダーシップの形とも言えるでしょう。

まとめ:「変えよう」から「変わるのを待つ」へ

「相手を変えてやろう」とする姿勢が、コーチングの本質を損ねてしまいます。部下の成長は、本人が自ら考え、選び、行動してこそ本物になります。

そのためには、マネジャー自身が「何もしない勇気」を持ち、自分の存在感を控え、部下が考え行動する空間を守ることが不可欠です。

今日から実践できる小さな一歩として、1on1の場面でアドバイスを飲み込み、「あなたはどう考える?」という一言を意識してみてください。

“信じて、待つ”。この姿勢こそが、これからのリーダーに最も必要な資質ではないでしょうか。短期的な視点ではなく、少し長い目で見れば、“信じて待つ”ことが、結局は早道であることに気づくと思います。

社員が動かない、それは、リーダーの思考が固まっているからではありませんか?

「社員が動かない」の裏にある、リーダーの思考の壁とは?

「もっと主体的に動いてくれたら…」
「何度も伝えているのに、なぜ伝わらないのだろう」
「未来を語っているはずなのに、現場がついてこない」

こんな思いを抱いたことはありませんか?
中小企業の経営者や経営幹部、リーダーとして日々の業務に向き合う中で、こうした課題に直面している方は少なくありません。

経営者や幹部の皆さんは、日々多くの決断を下しています。その決断は自分ひとりのものではなく、社員、顧客、取引先、さらには地域社会にまで影響を及ぼします。だからこそ、「決断の質」は、組織の未来を大きく左右する要素となるのです。

しかし、どれだけ明確なビジョンを掲げても、社員が主体的に行動しなければ、そのビジョンは絵に描いた餅のまま終わってしまいます。つまり、経営者やリーダーには「決断の質」だけでなく、「人を動かす力」も同時に求められるということです。

では、その「決断の質」を高め、現場の行動を変えるためには、一体何が必要なのでしょうか。

情報や知識だけでは、現場は変わらない

「意思決定の精度を上げるには、まず情報収集だ」
「本を読み、勉強し、知識を増やすことが大事」

確かに、知識や情報は欠かせません。しかし、実際の経営現場で成果を生み出すのは、知識そのものではありません。

真に問われるのは、数ある選択肢の中から「自分の目的に合った行動を選び取る力」です。そしてこの力は、単なる知識の蓄積では得られません。

なぜなら、人は誰しも、無意識のうちに「過去の経験」や「常識」とされる枠組みの中で物事を判断してしまうからです。その枠の中にいる限り、新しい行動や革新的な発想を生み出すことは難しいのです。

経営判断に影響を与える「思考の枠」

この「思考の枠」は、過去の成功体験や業界の慣習、自分自身の価値観などが積み重なって形成されています。無意識にその枠に従って判断し、動いてしまうため、いくら新しい情報や知識を得たとしても、行動が変わらないというジレンマに陥るのです。

例えばある中小企業の経営者は、業績が頭打ちになっているにもかかわらず、「このやり方で20年やってきたから間違っていない」と言い切っていました。しかし、コーチングを通じて自分の思考パターンに気づいたことで、「変えるべきは社員ではなく、まず自分の考え方だった」と発見し、戦略転換に踏み切ることができたのです。

このように、自分では気づきにくい「思考の枠」を意識化することが、新たな一歩の始まりになります。

思考の枠を打ち破る「コーチング」という選択

そこで有効なのが、コーチングという手法です。

コーチングとは、問いかけと対話を通じて、本人が自らの内面と向き合い、自ら答えを見出していくプロセスです。これによって、思考の枠に気づき、その外側にある選択肢や行動の可能性に気づくことができるのです。

特に経営者やリーダーにとってのコーチングの価値は、以下の3点に集約されます:

1. 無意識のパターンに気づける

自分一人では見えない「思考のクセ」「固定観念」に気づくことで、新しい選択肢が見えてきます。

2. 自分軸で意思決定ができる

外部の期待やプレッシャーに流されるのではなく、自分の目的や価値観に基づいた判断ができるようになります。

3. 現場との橋渡しができる

明確なビジョンと、自分自身の内側から湧き出る動機づけによって、現場への伝え方や関わり方にも変化が生まれ、社員の主体性を引き出すリーダーシップが発揮できるようになります。

まとめ:まずは「自分の思考の枠」に気づくことから始めよう

社員が動かない。現場がついてこない。
その裏には、経営者やリーダー自身の思考の枠が関係していることがあります。

だからこそ、「もっと伝え方を変えよう」「もっと勉強しよう」といったアプローチの前に、まずは「自分の思考の枠」に気づくことが大切です。

その一歩として、コーチとの対話を取り入れてみてはいかがでしょうか。
外部の視点を持ち、問いかけを通じて思考の枠を越えることで、これまでとは異なる選択と行動が可能になります。

あなたの決断が、社員の行動を変え、組織の未来を切り拓く起点となるのです。

あなたは、失敗から学べていますか?

多くの人は、「過去の言動や体験が今の自分を形作っている」と信じています。これは一見正しいように思えますし、実際に多くのリーダー研修や自己啓発書でも「過去を振り返り、そこから学ぶ」ことが重視されています。しかし、そこから本当に変化が生まれているでしょうか? 過去を振り返るだけで、なぜか行動が変わらない、同じような問題を繰り返してしまう──そんな経験はありませんか?

この問題の鍵を握るのが、アルフレッド・アドラーが提唱した「目的論」の視点です。アドラー心理学では、人間の行動はすべて「ある目的」に向かって選ばれていると考えます。つまり、過去の出来事によって自動的に反応したのではなく、「その目的を果たすために、その行動を選んだ」と見るのです。

たとえば、部下に強く当たってしまった過去の自分を振り返るとき、「忙しかったから」「余裕がなかったから」と原因を挙げがちです。しかし目的論的に見ると、「自分の立場を守るため」「指導力を示したかった」「評価されたいと思った」などの目的があって、強い言動を“選んだ”ことになります。

この見方を取り入れると、過去を単に悔やむだけではなく、「なぜそうしたのか」を深く掘り下げることができます。そして、今の行動を変える鍵もそこに見えてきます。つまり、「過去の目的」に気づくことが、「未来を変えるための行動選択」につながるのです。

アドラー心理学は、人間を「全体としての存在(ホリスティック)」としてとらえ、思考・感情・行動を一体のものと見なします。そして「創造的自我」によって、自らの目的を意識的に選び、人生を方向づけていけると考えます。これはまさに、リーダーに求められる力そのものです。

たとえば、ある中小企業の経営者が、過去に「社員の失敗を厳しく叱責することで組織の秩序を保ってきた」と振り返ったとします。彼は原因として「自分が厳しく育てられたから」と語っていましたが、目的論的に分析すると、「組織が崩壊する不安を抑えるため」「自分がリーダーとして認められたいから」という目的が見えてきました。

この目的に気づいたとき、彼は初めて「信頼を土台にした組織作り」という新たな目的を選ぶことができました。そこからは、社員との対話を重視し、責任の共有を進めるリーダーシップへと変化していきました。

では、私たちはどうすればこの目的論を日々のリーダーシップに活かせるのでしょうか。

まず第一に、「過去の言動の目的を問い直す」ことです。最近の失敗や後悔を伴う行動を振り返り、「なぜそのような行動を取ったのか?」を何度も問い直してみてください。初めは「忙しかったから」などの原因が浮かびますが、さらに深く掘ると「認められたかった」「支配したかった」「安心したかった」などの目的が見えてきます。

次に、「今の行動を、未来の目的から選ぶ」習慣を持つことです。「自分はどんなリーダーでありたいのか」「どんな組織をつくりたいのか」という未来のビジョンを明確にした上で、その目的に沿った言動を選ぶのです。たとえば「部下の自立を促すリーダーでありたい」と思うなら、日々の指示も一方通行ではなく、問いかけや選択肢の提示を増やしていくことが効果的です。

そして第三に、「目的をチームと共有する」ことです。リーダー自身の目的が明確になると、それをメンバーと共有することで、組織としての一体感が生まれます。たとえば「お客様にとって一番頼れる存在になる」という目的を掲げたチームは、日々の業務の中でも自然と助け合いや改善の動きが生まれやすくなります。

目的論は、単なる理論ではなく、リーダーの思考と行動を変える強力な実践フレームです。原因論から抜け出し、「なぜこの行動を選んだのか」という目的に注目することで、過去に縛られず、未来に向けた選択が可能になります。

今、あなたが取っている行動も、必ず何らかの目的によって選ばれています。その目的を明らかにすることで、あなたはもっと自由に、もっと力強く未来を創り出していけるはずです。

ぜひ、今日から「自分の目的は何か?」を問いかけてみてください。その一歩が、あなたのリーダーシップを次のステージへと導く鍵になるでしょう。

信頼はフィードバックから生まれる:中小企業が成果を伸ばす「場の力」の方程式

目の前の仕事、見てもらえていますか?

「うちは家族的な社風だから、言わなくても伝わる」 「部下に自由にやらせるのが信頼だと思っている」

そんな風に考えていませんか?

実は、こうした“無言の信頼”が、かえって部下の不安や不満を生む原因になっていることが多いのです。 部下は「自分の仕事がどう評価されているのか」「ちゃんと見てもらえているのか」「努力は報われるのか」に敏感です。これに答えを出せるのが、上司からの一貫したフィードバックです。

企業の成果は、メンバーの能力だけではなく、信頼×能力の掛け算で決まります。 本記事では、中小企業こそ取り組むべき「信頼を生むフィードバック」の重要性と、実践法をご紹介します。

組織の成果は「信頼 × 能力」で決まる

組織における成果(Y)は、以下のようなシンプルな方程式で表せます。

成果(Y)= 信頼(T) × 能力と成長(C)

ここで見落とされがちなのが、「信頼(T)」の正体です。 それは、上司が部下の仕事を見て、的確なフィードバックを与えているかどうかに直結します。

一貫性のあるフィードバックがあることで、部下は次のように感じます。

  • 「ちゃんと見てくれている」という承認の安心感
  • 「評価基準がぶれていない」という公平さへの信頼
  • 「もっと良くするために何が必要かが明確」という成長の方向性

逆に、フィードバックが曖昧だったり、感情的にぶれたり、そもそも行われていなければ、信頼(T)が大きく低下し、能力(C)が高くても成果(Y)は上がりません。

具体事例:フィードバックが信頼をつくった組織

日本のIT企業A社:上司が「見ている」ことが信頼を育てた

ある中堅IT企業では、部下育成の一環として、「週1回5分」の短時間フィードバック面談を導入しました。 内容はシンプルで、「最近良かった点」「改善できそうな点」「来週チャレンジしてみること」の3点を確認するだけです。

これにより、若手社員からは以下のような声が上がりました。

  • 「小さな成果にも反応してもらえるので、頑張れる」
  • 「改善点もはっきり言われるけど、一貫性があるので納得できる」
  • 「次にどうしたらいいかが明確で、自信が持てる」

この仕組みによって、チームの心理的安全性が向上し、離職率が下がっただけでなく、新規プロジェクト成功率も1.5倍に増加しました。

実践:信頼を生み出すフィードバックの3ステップ

①「見ているよ」のサインを日常で出す

フィードバックは面談の時だけでなく、日常の声かけでも可能です。 「昨日のプレゼン、〇〇の工夫が良かったね」と具体的に言及することで、部下は「ちゃんと見てくれている」と感じます。

② 一貫性のある評価軸を持つ

日によって、上司の機嫌や感情で評価が変わると、信頼は一気に崩れます。 評価のポイントはあらかじめ明文化し、チーム内で共有しましょう。特に、「良い行動」「避けるべき行動」の定義づけが効果的です。

③ 改善に向けたヒントを添える

フィードバックは「ダメ出し」で終わってはいけません。 「次はこうしてみたらどう?」と、前向きな一言を添えることで、部下は安心してチャレンジできます。

まとめ:信頼は、リーダーのフィードバックから始まる

組織の成果は、個々の能力ではなく、信頼 × 能力の掛け算で決まります。 そして、その信頼を築く最も確実な方法が、「一貫性のある、前向きなフィードバック」です。

「最近の若い社員は何を考えているかわからない」 「うちの社員は指示待ちで、自分で動かない」 こうした声をよく耳にしますが、これらは相手側の問題に見えて、実は解決しないまま停滞を生む典型的な思考パターンです。

本当に組織を変えたいなら、リーダー自身が主体的にできる行動に落とし込むことが大切です。 その一歩が、まさに「正しいフィードバック」です。

✔︎ 今すぐできるアクション

  • 毎週1回、5分だけのフィードバックタイムを設ける
  • 良い点・改善点・次の目標を、具体的かつ前向きに伝える
  • 小さな成功や努力を見逃さず、「見ているよ」と示す

信頼は、待つものではなく、つくるものです。 リーダーが日々のフィードバックを通じて「見てくれている」「一貫性がある」「次に進める」と部下に感じさせることで、信頼は育ち、やがて組織全体の成果につながります。 あなたの一言が、部下の成長と組織の未来を動かす起点になります。

知らないと損をする、あなたの指示が伝わらない理由

「ちゃんと伝えたのに動いてくれない」「指示通りにやったのに、なんか違うって言われた」。
職場でこんなやり取りが繰り返されるとき、単なる“伝達ミス”として片付けていませんか?

実はそこにあるのは、“直観”で動く上司と、“感覚”で受け取る部下との、焦点レベルのズレ。
このズレが、仕事の停滞や不信感の連鎖を生み出しているのです。

なぜ伝えたつもりが伝わらないのか?

上司が「顧客満足を最優先に!」と熱く語った翌週、「スピードを最優先に!」と方向転換。
部下は戸惑います。「先週と話が違う」「何を信じて動けばいいのか分からない」。

上司は一貫しているつもりです。「満足」も「スピード」も、“顧客満足”という同じ軸にある。
だから“進化した表現”をしているだけなのに……。

一方の部下は、具体的な指示の違いを重視するタイプ。
昨日と今日で違う言葉を使われると、すぐに混乱します。

このようなミスコミュニケーションは、認知の焦点レベルが違うことから生まれます。

上司は「直観」、部下は「感覚」で動いている

心理的な特性として、「直観型」と「感覚型」があります。

  • 直観型の上司は、未来の可能性やコンセプトに意識が向いています。
    「もっと良くするには?」「次の展開は?」という視点で、指示も日々変化します。
  • 感覚型の部下は、「何を」「いつ」「どうやって」を重視します。
    変化よりも安定、理想よりも現場の具体が判断軸です。

このような組み合わせの場合、以下のような現象が起こります:

観点上司の内面部下の内面
指示感覚常に“同じ目的”に基づいて話しているつもり毎回“言っていることが違う”ように聞こえる
判断基準目的に向けて柔軟に変化手順や順序が変わると混乱する
フィードバック「全体の意図が読めないのか?」と不満「そもそも全体像が不明確」と困惑
結果行動がズレる、成果が出ない自信を失い、受け身になりがち

つまり、「あなたの指示が伝わらない」のは、能力ややる気ではなく、焦点のズレによる自然現象なのです。

ズレを解消する3つの対策

このズレは「誰かが悪い」からではなく、特性の違いによって起こります。
だからこそ、意図的な補正と仕組みが必要です。

1.上司側の工夫:「背景」「目的」「評価軸」の明示

直観的なアイデアを感覚型の部下に伝えるには、“橋渡し”が必要です。

  • なぜこの指示なのか(目的)
  • どんな背景でその判断に至ったのか(背景)
  • 何をもって成果とするのか(評価軸)

この3点をセットで伝えるだけで、感覚型部下は安心して動けます。
また、「変わらない方針」と「変えていく部分」を明確に分けて伝えることも重要です。

2.組織としての補完:「目的→方向性→具体行動」のフレーム共有

組織内で“共通言語”として、以下の3層構造を意識してみてください。

  • 目的(Why)
  • 方向性(How)
  • 具体行動(What)

この構造をポスター化し、プロジェクトごとに可視化しておくことで、
言葉の変化にも「軸は同じ」という共通理解が生まれます。

最後に ――“ズレ”の先にある成長へ

上司の言葉が伝わらない。部下が思い通りに動かない。
それは意思疎通の失敗ではなく、“焦点の違い”という構造的な現象です。

だからこそ、感覚と直観の橋をかける「仕組み」が必要です。
このズレを補うことで、上司の構想力と部下の実行力が融合し、組織は飛躍的に前進します。

「あなたの指示が伝わらない」は、成長のチャンス。
違いを理解し、対話の質を上げることで、チームの未来は変わります。

責任を持って選択することができていますか?~選ぶことは同時に捨てること~

あなたは、今日どんな選択をしましたか?
朝の目覚めから、何を食べるか、どの服を着るか、どの仕事を優先するか。
私たちは日々、多くの「選択」を繰り返しています。

しかし、その選択の裏には、必ず「選ばなかった何か」が存在しています。
この“何かを得るには、何かを手放さなければならない”という現実を、**トレードオフ(Trade-off)**と呼びます。

例えば、仕事に集中するためにプライベートの時間を減らす。
あるいは、成長できる部署に異動するために、気心の知れた仲間と離れる。
どちらも、「何かを得るために、何かを犠牲にする」決断です。

この当たり前のようで見落とされがちな原則こそ、リーダーとして成長するための土台になるものです。

トレードオフを避ける人は、リーダーになれない

若いビジネスパーソンと話していて感じるのは、
「できるだけ多くを手に入れたい」「バランスよく、すべてを得たい」という思考が強いということです。
もちろん、その思い自体は自然です。誰だって、仕事もプライベートも、安定も挑戦も、全部欲しい。

しかし、現実は残酷です。
「すべてを得る」ことは、基本的にできません。

だからこそ、「自分にとって本当に必要なものは何か?」を見極め、選ぶ力が必要です。

ここで問題なのは、トレードオフから目をそらし、曖昧な姿勢をとることです。
意思決定を他人に任せたり、保留にしたり、結論を先延ばしにすることで、
「選ばなかった」という責任から逃れようとする。

しかし、それは裏を返せば、自分の人生の舵を他人に預けることでもあります。
リーダーとして求められるのは、自分で選び、その結果に責任を持つ覚悟です。

トレードオフが、主体性を育てる

「主体性を持て」と言われても、どうすればいいかわからない。
そんな声を多く聞きます。
実は、主体性は「選択の責任を引き受ける」ことによって初めて育ちます。

リーダーとは、正解のない状況で選ぶ人です。
どちらを選んでも痛みを伴う、そんな場面に直面したときに、
どれだけ自分の価値観に照らして、軸を持って判断できるか。

たとえば、ある若手社員が、安定した本社のポジションを捨てて、赤字の地方支社に異動する決断をしたケースがあります。
周囲からは「なぜわざわざ苦労を買うのか」と言われたそうですが、本人は明確に言っていました。

「挑戦のフィールドを選びたかった。失敗しても、自分で選んだことなら納得できると思った。」

この選択は、彼にとって「安定」か「挑戦」かというトレードオフでした。
結果として、彼は現地で新しいチームをつくり、成果を上げ、数年後には本社に戻ってリーダーとして抜擢されました。

このように、「選択する責任」を引き受ける経験こそが、リーダーシップを育てるのです。

中途半端な選択が、成長を止める

逆に言えば、トレードオフを避け、すべてを少しずつ得ようとする姿勢は、
結局どこにも本気で向き合わないことにつながります。

たとえば、自己成長したいと思いながら、休日のすべてを趣味や娯楽にあててしまう人。
部下との関係性を築きたいと思いながら、常にタスク優先で関わりを後回しにしてしまう人。
そこには、「時間の使い方」という明確なトレードオフが潜んでいます。

「自分にとって何が本当に大切なのか?」という問いに答えない限り、
何かを深く得ることはできません。

深く得るためには、何かを手放す覚悟が必要です。

リーダーは、選択によって人に示す

若手リーダーの多くは、「どうすれば周囲から信頼されるか」に悩みます。
その答えの一つが、自らの選択で姿勢を示すことです。

リーダーとは、言葉よりも「どこに立つか」で評価される存在です。
苦しい状況のときに、どんな判断をするのか。
自分が損をしてでも守るべきものを守るのか。
そうした選択の積み重ねが、信頼となり、リーダーシップの土台になります。

たとえば、目先の成果を得るために短期施策を優先するか、
中長期のビジョンのために厳しい判断を下すか。
リーダーは常にトレードオフの中で決断を求められます。

そしてその判断は、「この人が選ぶ道なら、ついていこう」と思わせる力になります。

選択の軸を持つために

では、トレードオフを正しく選ぶために、私たちは何をすればいいのでしょうか。
それは、自分の中に価値観の軸を持つことです。

  • 何を大切にしたいのか
  • どんな未来を創りたいのか
  • どんな人間でありたいのか

これらの問いに向き合い、紙に書いてみるだけでも、自分の選択が変わり始めます。
迷ったときに立ち戻れる「基準」があることで、ブレない選択ができるようになります。

その積み重ねが、やがてリーダーとしての「存在感」や「信頼感」を形づくるのです。

まとめ:選ぶ勇気が、未来を変える

何かを得るには、何かを捨てなければならない。
この現実に向き合い、真剣に選び続けること。
それが、主体性を育て、リーダーシップを磨く最も確かな道です。

トレードオフは、成長の扉です。
その扉を開くには、「すべてを得よう」とする欲から一歩引いて、
「何を得るために、何を手放すか」という視点に立つこと。

選択に責任を持つあなたを、人は信頼します。
そして、その覚悟ある選択が、あなたをリーダーへと導いていくのです。

ビジョンだけでは足りない。“希望”がないと人はついてこない

希望があるから、人は歩き出せる

「もうダメだ」「これ以上は無理かもしれない」
そんなふうに感じたこと、誰にでも一度や二度はあると思います。

けれど、ふとした瞬間に見える小さな光――それが「希望」です。
その希望が、どれほど大きな力を持っているか。今日はそんなお話をしたいと思います。

希望があるから、耐えられる

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによって設置されたアウシュビッツ収容所。そこでは人間としての尊厳が奪われ、想像を絶する環境で多くの人が命を落としました。そんな地獄のような場所でも、生き延びた人がいます。

精神科医であり、『夜と霧』の著者としても知られるヴィクトール・フランクル氏は、そのアウシュビッツを生き延びた一人です。
彼が語ったのは、意外なほどシンプルなことでした。

「明日、妻にもう一度会えるかもしれない」
「収容所から出たら、やりたいことがある」
「この経験を伝える使命があるのではないか」

そんな未来のイメージが、彼を生かしました。
つまり、人がどれだけ過酷な状況に置かれても、“希望”さえあれば、耐えることができるのです。

希望とは、「今」を変える魔法ではありません。
でも「これから」に意味を与えてくれるものだと思います。

希望は、イメージから始まる

ビジネスの世界でも、この「希望」が大きな力を持っています。
たとえばビジョン経営や理念経営――言葉だけ聞くと、どこか堅くて、抽象的に感じるかもしれません。でも、その根底にあるのは、「未来を描く力」です。

よく、企業のホームページやパンフレットには「理念」や「ビジョン」が書かれていますよね。
でもそれが単なる「言葉」で終わってしまっていたら、残念ながら、ほとんど意味がありません。

大切なのは、それが具体的に「イメージできるかどうか」です。

「3年後には、自分たちのサービスで地域の人の暮らしが変わっている」
「10年後には、社員が誇りを持てる会社になっている」

そんなふうに、“絵”として思い浮かべられるレベルで語られてこそ、ビジョンは人の心に届きます。
つまり、言葉として存在していても、イメージされていなければ、ビジョンには力が宿らないのです。

逆に、未来をはっきりイメージできれば、目の前の困難も意味あるものに変わります。
だからこそ、「言葉」だけでなく、「映像」として思い描く力が、組織の力を決めていきます。会社の未来に希望を抱くことができているのだと思います。

希望は、自分の中に育てられる

「でも、自分にはそんな希望なんて持てない」と感じる人もいるかもしれません。
そんなときに大切なのは、「希望は、訓練できる」ということです。

人間の脳は、イメージに反応する性質があります。
明るい未来を思い描けば、脳はその可能性に向かって動き出すようにできています。

たとえば、毎朝ほんの数分でもいいので、自分の理想の一日や、叶えたい未来を具体的にイメージしてみる。
・どんな服を着て
・どんな場所で
・誰といて
・どんな気持ちで過ごしているか

そういうイメージを、心の中に“ありありと描く”ことで、希望は育っていきます。
これは、スポーツ選手が行うメンタルトレーニングと同じ原理です。

未来に対して肯定的なイメージを持つことは、「今」を力強く生きるためのトレーニングでもあるんです。

リーダー自身が希望を持つことから始まる

そして、組織においてはリーダーこそが、まず希望を持たなくてはなりません。
リーダーが自分の未来や、チームの未来を語らずして、メンバーが希望を持つことはできません。

希望とは、静かに広がっていくものです。
たとえば、あるプロジェクトで困難に直面したとき。
リーダーが、「この状況もきっと意味がある。僕たちなら、乗り越えられる」と語ったとします。

その言葉が、メンバーの中に少しずつ染み込んでいく。
やがて一人が動き出し、もう一人がそれに影響される。
そうやってチームに連鎖が生まれ、空気が変わっていくんです。

未来を語る。
自分たちは、こうなりたいと口にする。
それがリーダーの大事な役割のひとつです。

希望があるから、行動が生まれる

どんなに小さな一歩でも、希望があるから踏み出せる。
逆に、希望がなければ、どんなに周囲が「やれ」と言っても、人は動けません。

行動の背景には、いつも「こうなりたい」「こうありたい」という想いがあります。
それは誰かに強制されたものではなく、自分の中から湧いてくるもの。
そしてその想いを支えているのが、“希望”です。

だからこそ、どんな状況にあっても、
「何を望んでいるのか」
「どんな未来を見ているのか」を問い続けることが大切なのです。

最後に

希望とは、現実逃避ではありません。
むしろ、現実と向き合いながらも、「もっと良くなる」と信じること。

アウシュビッツのような極限の中で希望を失わなかった人がいたように、私たちの日常の中にも、小さな希望の種は確かにあります。

その種をどう育てるか。
それが、行動するエネルギーをつくり、未来をつくるのだと思います。

明日を信じられる人だけが、今日を生き切れる。
そしてその力は、誰の中にも眠っているのです。