このままじゃいけない」と思いながら、つい現状にとどまってしまう。そんな経験はありませんか?
人には誰しも、「今のままでいたい」と思う“安心領域”があります。それが「コンフォートゾーン」です。実はこのコンフォートゾーン、仕事ができる人ほど強く形成されていて、時として組織の成長を止める原因にもなります。
本記事では、「今を維持したい。壊したくない」という気持ちは、誰にでもある普通の感情であり、それが実は変革を止める要因であることを考えたいと思います。そして、リーダーに求められるのは、この人間の本能的な感情を理解し一歩踏み出す力にあることを、一緒に考えられたらと思います。
変化の時代を生き抜くリーダーに、ぜひ読んでいただきたい内容です。
1.コンフォートゾーンとは何か
人には誰しも、無意識に「居心地の良い範囲」をつくっています。これがいわゆるコンフォートゾーンです。そこでは、自分がある程度の成果を出せる自信があり、大きなリスクを取る必要もありません。慣れた仕事、人間関係、業務の進め方。たとえ多少の不満や物足りなさがあったとしても、ストレスが比較的少なく、ある意味で「安心して過ごせる場所」です。
このコンフォートゾーンにいるとき、人は精神的に安定します。しかし一方で、そこにとどまり続けることが、知らぬ間に自分の成長や組織の進化を妨げてしまうことがあります。
2.仕事ができる人にも、できない人にも、誰にでもある
「コンフォートゾーンは、成果を出せない人の話だ」と思ってはいけません。むしろ、高い成果を出している人ほど、無自覚に自分の成功パターンに固執しやすくなります。
たとえば営業の現場では、「自分なりの営業スタイルを確立してきたベテラン社員」が、新しい営業手法やデジタルツールの導入に消極的になることがあります。「今のやり方で結果が出ているんだから、それでいい」と考えるのです。
一方で、成果を出せていない人も、「これ以上は無理だ」「自分には向いていない」と自らの限界を早々に決めつけ、挑戦をやめてしまうことがあります。これもまた、自分の「できると思える範囲=コンフォートゾーン」の外に出られない例です。
つまり、誰もがコンフォートゾーンを持っており、その中にとどまる心理的な安心感に縛られてしまうのです。
3.組織を停滞させる「できる人」のコンフォートゾーン
組織の成長を阻む最大の要因は、「能力がある人材」が変化を拒み、現状にとどまることにあります。
できる人は、今までのやり方で成果を出してきた成功体験があるからこそ、「変わる必要性」を感じづらい。周囲からも「信頼できる人」「優秀な社員」と認識されており、自ら変化を求めなくても高く評価され続けるという環境が整ってしまっているのです。
その結果、新しいチャレンジや変革が必要な場面で、最も影響力のある人が動かないという事態が生じます。こうなると、組織全体が「変わらなくていいんだ」というムードに包まれ、前に進めなくなります。
特に変化の激しい今の時代において、「変わらないこと」はリスクです。ビジネスモデルは陳腐化し、市場は急速に移り変わり、競争環境も一変します。「今までの成功体験」が、明日の失敗の原因になることすらあるのです。
4.コンフォートゾーンを超えるのが、リーダーの役割
組織に変革をもたらすには、まずリーダー自身が、自分のコンフォートゾーンから一歩踏み出すことが必要です。
リーダーが「変化は怖い」「失敗したくない」と思って足を止めてしまえば、部下たちもそれを見て「変わらないほうがいいんだ」と感じてしまいます。逆に、リーダーが「自分も未知の領域に挑戦する」という姿を見せれば、部下もそれに引き寄せられ、行動が変わっていきます。
ここで重要なのは、「すでにできること」や「確実に成功すること」ばかりに集中するのではなく、あえて不確実性の中に飛び込む勇気を持つことです。
多くの人は、「失敗したらどうしよう」「うまくいかなかったら立場がなくなる」と不安になります。それでも、リーダーは「この変化が、組織の未来に必要だ」と信じて、最初の一歩を踏み出さねばなりません。
5.ヴィジョンと志が、恐怖を乗り越える力になる
では、どうすればコンフォートゾーンを抜け出し、挑戦する力を持てるのでしょうか?
それには、「やらなければならないからやる」という義務感ではなく、「これを成し遂げたい」というヴィジョンと、「この道を歩む理由」を支える志が必要です。
たとえば、ある経営者が「地域の医療をもっと身近にする」という強い志を持ち、これまでになかった訪問型サービスに取り組んだ例があります。最初は不安や反対意見も多かったものの、その志とヴィジョンが社員を巻き込み、新しい事業が形になっていきました。
志は、自分だけのためではなく、「誰かのため」「社会のため」という視点を持つことで、より大きな力を生みます。そしてヴィジョンは、変化の中でも進むべき道を見失わないための灯台となります。
リーダーが志とヴィジョンを掲げ、それに向かって一歩を踏み出すことで、周囲も「この人と一緒に挑戦したい」と感じるようになるのです。
おわりに:リーダーこそ、最初にコンフォートゾーンを出よう
成長も変革も、「快適な場所」からは生まれません。組織の未来を切り拓くリーダーには、まず自分自身が、見慣れた風景から一歩踏み出す勇気を持つことが求められています。
もちろん、それは簡単なことではありません。失敗や批判、孤独な決断に直面することもあるでしょう。けれど、その一歩こそが、あなた自身の成長を促し、チームや組織の可能性を広げるきっかけになります。
「このままでいいのか?」
そう感じたときが、まさにコンフォートゾーンを抜け出すチャンスです。そしてその先には、これまで見たことのない風景と、新たな仲間との出会いが待っています。