「ちゃんと伝えたのに動いてくれない」「指示通りにやったのに、なんか違うって言われた」。
職場でこんなやり取りが繰り返されるとき、単なる“伝達ミス”として片付けていませんか?
実はそこにあるのは、“直観”で動く上司と、“感覚”で受け取る部下との、焦点レベルのズレ。
このズレが、仕事の停滞や不信感の連鎖を生み出しているのです。
なぜ伝えたつもりが伝わらないのか?
上司が「顧客満足を最優先に!」と熱く語った翌週、「スピードを最優先に!」と方向転換。
部下は戸惑います。「先週と話が違う」「何を信じて動けばいいのか分からない」。
上司は一貫しているつもりです。「満足」も「スピード」も、“顧客満足”という同じ軸にある。
だから“進化した表現”をしているだけなのに……。
一方の部下は、具体的な指示の違いを重視するタイプ。
昨日と今日で違う言葉を使われると、すぐに混乱します。
このようなミスコミュニケーションは、認知の焦点レベルが違うことから生まれます。
上司は「直観」、部下は「感覚」で動いている
心理的な特性として、「直観型」と「感覚型」があります。
- 直観型の上司は、未来の可能性やコンセプトに意識が向いています。
「もっと良くするには?」「次の展開は?」という視点で、指示も日々変化します。 - 感覚型の部下は、「何を」「いつ」「どうやって」を重視します。
変化よりも安定、理想よりも現場の具体が判断軸です。
このような組み合わせの場合、以下のような現象が起こります:
| 観点 | 上司の内面 | 部下の内面 |
| 指示感覚 | 常に“同じ目的”に基づいて話しているつもり | 毎回“言っていることが違う”ように聞こえる |
| 判断基準 | 目的に向けて柔軟に変化 | 手順や順序が変わると混乱する |
| フィードバック | 「全体の意図が読めないのか?」と不満 | 「そもそも全体像が不明確」と困惑 |
| 結果 | 行動がズレる、成果が出ない | 自信を失い、受け身になりがち |
つまり、「あなたの指示が伝わらない」のは、能力ややる気ではなく、焦点のズレによる自然現象なのです。
ズレを解消する3つの対策
このズレは「誰かが悪い」からではなく、特性の違いによって起こります。
だからこそ、意図的な補正と仕組みが必要です。
1.上司側の工夫:「背景」「目的」「評価軸」の明示
直観的なアイデアを感覚型の部下に伝えるには、“橋渡し”が必要です。
- なぜこの指示なのか(目的)
- どんな背景でその判断に至ったのか(背景)
- 何をもって成果とするのか(評価軸)
この3点をセットで伝えるだけで、感覚型部下は安心して動けます。
また、「変わらない方針」と「変えていく部分」を明確に分けて伝えることも重要です。
2.組織としての補完:「目的→方向性→具体行動」のフレーム共有
組織内で“共通言語”として、以下の3層構造を意識してみてください。
- 目的(Why)
- 方向性(How)
- 具体行動(What)
この構造をポスター化し、プロジェクトごとに可視化しておくことで、
言葉の変化にも「軸は同じ」という共通理解が生まれます。
最後に ――“ズレ”の先にある成長へ
上司の言葉が伝わらない。部下が思い通りに動かない。
それは意思疎通の失敗ではなく、“焦点の違い”という構造的な現象です。
だからこそ、感覚と直観の橋をかける「仕組み」が必要です。
このズレを補うことで、上司の構想力と部下の実行力が融合し、組織は飛躍的に前進します。
「あなたの指示が伝わらない」は、成長のチャンス。
違いを理解し、対話の質を上げることで、チームの未来は変わります。