「問題が発生したのと同じ次元では、その問題を解決することはできない。」
これは、物理学者アルベルト・アインシュタインの有名な言葉です。問題の本質は、多くの場合、出来事そのものにあるのではなく、「その出来事をどのように見ているか」に隠れています。
この考え方は、ビジネスやマネジメントの現場でも非常に示唆に富んでいます。特にリーダーの仕事においては、「視点」に注目することが極めて重要です。なぜなら、メンバー一人ひとりの行動や判断は、「何をどう見ているか」によって決まるからです。
行動を変えるには、視点を変える必要があります。そしてその変化を導けるのが、リーダーという存在だと考えます。
この記事では、「リーダーの仕事とは、チームの視点を変えることである」というテーマのもと、視点がどのように行動や成果に影響するのかを示していきます。
行動の選択は、どの視点で物事を捉えるかで決まる
冒頭で示したように、人の行動は「事実」そのものではなく、「その事実をどう捉えたか」で決まります。
たとえば、営業目標を達成できなかったとき、「自分の努力が足りなかった」と考える人もいれば、「商品力が低いから仕方ない」と感じる人もいます。どちらの捉え方をするかで、その後の行動は大きく変わります。
前者の視点では、「次は工夫してみよう」「お客さまの声をもっと聞こう」といった改善行動が生まれます。一方、後者の視点では、他責になり、「どうせ頑張っても無理だ」といった諦めが先に立ちやすくなります。
つまり、私たちは現実に反応しているのではなく、「現実をどう見ているか」に反応しているのです。
このように、視点が変われば行動が変わる。だからこそ、リーダーは「部下の行動を変えたい」と思ったときには、まず「その人の視点」に注目する必要があります。
目的を達成するための行動の選択は、現状の捉え方で決まる
「なぜ、この行動を選んだのか」という問いに対し、人はたいてい「今の状況ではこれしかない」と答えます。
これは裏を返せば、「現状の捉え方」によって、選べる行動の幅が決まってしまっているということです。
たとえば、ある部下がなかなか相談に来ない、報告が遅れる、といった行動を取っていたとします。リーダーが「やる気がないのだろう」「主体性が足りない」と決めつけると、その部下への関わりは叱責や注意中心になりがちです。
しかし、ここで視点を変えて、「この部下は、もしかすると自分に対して話しかけにくさを感じているのではないか」「過去のやり取りで委縮させてしまったのではないか」と捉え直してみると、まったく違う現実が見えてきます。
実際に振り返ってみると、以前の会話で無意識に強い口調で返していたり、否定的な反応をしていたことに気づくかもしれません。そこで、リーダーの方から歩み寄ることで、部下の行動は徐々に変わっていきます。
このように、リーダー自身が視点を切り替えることで、部下の行動の“意味”を理解できるようになり、関係性の改善や信頼構築につながります。
このように、目的を達成するためには、現状の捉え方=視点が重要なカギになります。視点が固定されたままだと、行動はいつも同じになり、成果も変わらないのです。
リーダーは、チームが「現状をどう捉えているか」を常に観察し、必要に応じて視点の転換を促すことが求められます。
同じ視点で捉えていて、問題が解決しないなら視点を変える
問題が長期間にわたって解決しないとき、多くの人は「もっと努力すべきだ」「やり方がまずかった」と考えます。
もちろん努力や方法論の見直しも重要ですが、それ以前に考えるべきなのは「そもそも私たちはこの問題をどう見ているのか」という視点の部分です。
心理学では「認知の枠組み(フレーム)」という考え方があります。これは、私たちが物事を理解し、意味づける際の“ものさし”のようなものです。
たとえば、「売上が下がっている」という事実があったとして、「チームのやる気が低いからだ」と捉えるのか、「市場が変化しているのに対応できていないからだ」と捉えるのかで、打つべき施策は大きく異なります。
同じ枠組みのままで、何度も同じ問題にぶつかっているなら、それは「行動の限界」ではなく、「視点の限界」かもしれません。
リーダーが持つべき問いは、「もっと頑張るにはどうすればいいか」ではなく、「この問題を別の角度から見たら、何が見えるか」です。
対立は、各々の視点のぶつかり合いである
職場で起こる対立の多くは、価値観や性格の違いというより、「物事の見え方の違い」から起こります。
たとえば、部下Aは「スピード重視」、部下Bは「丁寧さ重視」。この二人が一緒にプロジェクトを進めると、「なぜそんなに急ぐの?」「なぜそんなに時間をかけるの?」という不満がぶつかり合います。
これは、どちらが正しい・間違っているという話ではありません。あくまで「見ている景色」が違うだけなのです。
リーダーがやるべきことは、この対立を解消するために「共通の目的」を再確認させること。そして、各々の視点に意味があることを認めながら、視点の“重なり”を探すことです。
この作業には時間がかかるかもしれません。しかし、それを怠ると、根本的な誤解が解けないまま、表面的な折衷案だけで物事を進めてしまうリスクがあります。
葛藤も自分、または組織固有の視点のぶつかり合い
「やりたいけど、できない」「進めたいけど、不安がある」――こうした“葛藤”もまた、視点の衝突によって生まれます。
たとえば、ある社員が「新しい提案をしたい」と思っているのに、なかなか行動に移せないとします。その内面では、「自分のアイデアには価値がある」という視点と、「失敗したら評価が下がる」という別の視点がぶつかっているのです。
組織全体でも同じことが起きます。「変革すべきだ」と感じながらも、「今の仕組みを壊すのは怖い」といった葛藤は、視点の複数性から生じています。
リーダーは、このような葛藤の背景にある「対立する視点」を丁寧に言語化し、バランスのとれた捉え方に導く必要があります。
具体的には、「失敗しても挑戦が評価される風土」をつくったり、「どんな視点も一度は受け止める対話の場」を設けたりすることで、葛藤を前向きな力に変えることができます。
おわりに:視点を変えることで、チームは変わる
リーダーは、チームを先導すると同時に、チームの“見方”を変える存在でもあります。
視点を変えることは、価値観を揺るがす行為でもあるため、決して簡単ではありません。抵抗があるのも当然です。
しかし、視点を変えることでしか、乗り越えられない壁があるのもまた事実です。
行動を変えるには、まず視点を変える。
チームを変えたいなら、チームが世界をどう見ているかに寄り添い、その見方を少しずつ拡張していくこと。それこそが、リーダーに求められる最も繊細で重要な仕事です。