ビジョンだけでは足りない。“希望”がないと人はついてこない

希望があるから、人は歩き出せる

「もうダメだ」「これ以上は無理かもしれない」
そんなふうに感じたこと、誰にでも一度や二度はあると思います。

けれど、ふとした瞬間に見える小さな光――それが「希望」です。
その希望が、どれほど大きな力を持っているか。今日はそんなお話をしたいと思います。

希望があるから、耐えられる

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツによって設置されたアウシュビッツ収容所。そこでは人間としての尊厳が奪われ、想像を絶する環境で多くの人が命を落としました。そんな地獄のような場所でも、生き延びた人がいます。

精神科医であり、『夜と霧』の著者としても知られるヴィクトール・フランクル氏は、そのアウシュビッツを生き延びた一人です。
彼が語ったのは、意外なほどシンプルなことでした。

「明日、妻にもう一度会えるかもしれない」
「収容所から出たら、やりたいことがある」
「この経験を伝える使命があるのではないか」

そんな未来のイメージが、彼を生かしました。
つまり、人がどれだけ過酷な状況に置かれても、“希望”さえあれば、耐えることができるのです。

希望とは、「今」を変える魔法ではありません。
でも「これから」に意味を与えてくれるものだと思います。

希望は、イメージから始まる

ビジネスの世界でも、この「希望」が大きな力を持っています。
たとえばビジョン経営や理念経営――言葉だけ聞くと、どこか堅くて、抽象的に感じるかもしれません。でも、その根底にあるのは、「未来を描く力」です。

よく、企業のホームページやパンフレットには「理念」や「ビジョン」が書かれていますよね。
でもそれが単なる「言葉」で終わってしまっていたら、残念ながら、ほとんど意味がありません。

大切なのは、それが具体的に「イメージできるかどうか」です。

「3年後には、自分たちのサービスで地域の人の暮らしが変わっている」
「10年後には、社員が誇りを持てる会社になっている」

そんなふうに、“絵”として思い浮かべられるレベルで語られてこそ、ビジョンは人の心に届きます。
つまり、言葉として存在していても、イメージされていなければ、ビジョンには力が宿らないのです。

逆に、未来をはっきりイメージできれば、目の前の困難も意味あるものに変わります。
だからこそ、「言葉」だけでなく、「映像」として思い描く力が、組織の力を決めていきます。会社の未来に希望を抱くことができているのだと思います。

希望は、自分の中に育てられる

「でも、自分にはそんな希望なんて持てない」と感じる人もいるかもしれません。
そんなときに大切なのは、「希望は、訓練できる」ということです。

人間の脳は、イメージに反応する性質があります。
明るい未来を思い描けば、脳はその可能性に向かって動き出すようにできています。

たとえば、毎朝ほんの数分でもいいので、自分の理想の一日や、叶えたい未来を具体的にイメージしてみる。
・どんな服を着て
・どんな場所で
・誰といて
・どんな気持ちで過ごしているか

そういうイメージを、心の中に“ありありと描く”ことで、希望は育っていきます。
これは、スポーツ選手が行うメンタルトレーニングと同じ原理です。

未来に対して肯定的なイメージを持つことは、「今」を力強く生きるためのトレーニングでもあるんです。

リーダー自身が希望を持つことから始まる

そして、組織においてはリーダーこそが、まず希望を持たなくてはなりません。
リーダーが自分の未来や、チームの未来を語らずして、メンバーが希望を持つことはできません。

希望とは、静かに広がっていくものです。
たとえば、あるプロジェクトで困難に直面したとき。
リーダーが、「この状況もきっと意味がある。僕たちなら、乗り越えられる」と語ったとします。

その言葉が、メンバーの中に少しずつ染み込んでいく。
やがて一人が動き出し、もう一人がそれに影響される。
そうやってチームに連鎖が生まれ、空気が変わっていくんです。

未来を語る。
自分たちは、こうなりたいと口にする。
それがリーダーの大事な役割のひとつです。

希望があるから、行動が生まれる

どんなに小さな一歩でも、希望があるから踏み出せる。
逆に、希望がなければ、どんなに周囲が「やれ」と言っても、人は動けません。

行動の背景には、いつも「こうなりたい」「こうありたい」という想いがあります。
それは誰かに強制されたものではなく、自分の中から湧いてくるもの。
そしてその想いを支えているのが、“希望”です。

だからこそ、どんな状況にあっても、
「何を望んでいるのか」
「どんな未来を見ているのか」を問い続けることが大切なのです。

最後に

希望とは、現実逃避ではありません。
むしろ、現実と向き合いながらも、「もっと良くなる」と信じること。

アウシュビッツのような極限の中で希望を失わなかった人がいたように、私たちの日常の中にも、小さな希望の種は確かにあります。

その種をどう育てるか。
それが、行動するエネルギーをつくり、未来をつくるのだと思います。

明日を信じられる人だけが、今日を生き切れる。
そしてその力は、誰の中にも眠っているのです。

イメージできることしか、人は行動できない

「やる気が出ない」「何をすればいいのかわからない」「理想はあるけれど、現実には遠すぎる」――。そんな言葉を、あなたも一度は口にしたことがあるかもしれません。
実はそれ、決してあなたの意志が弱いからでも、能力が足りないからでもありません。

人は“イメージできること”しか、行動に移すことができない。
これは、心理学や脳科学の分野でも繰り返し語られている、大切な原則です。言い換えれば、どんなに立派な目標を掲げても、それを「具体的にイメージできていない」限り、私たちはその目標に向かって本気で動くことができないのです。

イメージは行動の原動力になる

私たちの脳は、現実とイメージを区別するのが得意ではありません。たとえば、レモンを思い浮かべてみてください。皮のざらざらとした手触り、切った瞬間の酸っぱい香り、口に含んだ時のキュッとすぼまる感覚…。
たった数秒の想像で、唾液がにじんでくる人も多いはずです。

これは、脳が「想像=現実」だと認識しているから起きる現象ですつまり、まだ手にしていない未来であっても、そこに「リアリティ」があるほど、脳、つまりあなたは、それが現実だと認識するということです。

その現実感によって、行動に向かうエネルギーが高まります。

理念・ビジョン・目標も「達成イメージ」がなければ動けない

多くの企業が「理念」や「ビジョン」を掲げ、個人も「目標設定」の重要性を理解しています。しかし、これらは掲げただけでは意味を持ちません。
本当に力を発揮するのは、それらが“どんな状態になっているか”を五感で感じられるほど、具体的にイメージできた時です。

たとえば、「チームで成果を出す」という目標なら…

  • オフィスの空気感はどうなっているか?
  • 仲間同士、どんな言葉を掛け合っているか?
  • 成果が出た瞬間、自分の心にどんな感情が湧いているか?
  • 上司やお客様から、どんな声が聞こえてくるか?
  • 達成後、自分はどんな表情で、どんな景色を見ているか?

ここまでイメージできて初めて、人は「その未来を自分のもの」として捉え始めます。そしてその瞬間、今、何をすればいいかが見えてくるのです。

可能性に制限をかけずにイメージする

「でも、自分にそんな未来が来るとは思えない…」

そう感じる人も多いでしょう。けれど、それは過去の経験や今の環境が、あなたの想像力に制限をかけているだけです。

未来をイメージする時には、「現実的に可能かどうか」は一旦脇に置いてください。
大切なのは、“ワクワクする未来”を、自分の内側から引き出すことです。

プロのアスリートや起業家、リーダーたちは皆、この「イメージの力」を信じ、活用しています。たとえば一流のスキーヤーは、滑り始める前にコースを頭の中で完全に再現します。風の音、体の傾き、雪の感触、タイミング…。それを何度も繰り返すことで、実際の行動がぶれなくなります。

イメージがあるから、今できることを選べる

未来を具体的にイメージすることで、私たちは「今できること」に焦点を当てられるようになります。

たとえば、「5年後に独立して自分の事業を持ちたい」とします。
その未来を鮮明に思い描いていれば、「今、どんな人と繋がるべきか」「どんな知識を身につけておくべきか」「どんな小さな実績を積んでおくべきか」が自然と見えてきます。

未来がぼんやりしていると、「何をすればいいのか」がわからず、結局何もしない日々になってしまいます。逆に、未来が鮮やかに見えている人は、今日という1日に意味を見出せるのです。

今からできる「イメージ行動」のすすめ

最後に、今日から実践できる“イメージトレーニング”を紹介します。

1.理想の1日を思い描いてみる

朝どんな気持ちで目覚め、誰と何をして、どんな成果を出して、どんな気持ちで眠りにつくか。時間を追って思い描いてみましょう。

2.五感をフル活用して描く

見える景色、聞こえる声、香り、手触り、気温、そして何より感情。「その場にいるように」臨場感を持って描いてください。

3.その未来に近づく「今日できる1つの行動」を決める

どんなに小さくても構いません。「その人に連絡する」「本を1ページ読む」「感謝を伝える。その1歩が、未来とのつながりをつくります。

おわりに:未来は、“今の思い”で決まる

「イメージできることしか、人は行動できない」

この言葉は、私たちに“希望”を与えてくれます。なぜなら、未来は、今ここで描くイメージから生まれるからです。
どんなに困難に見える状況でも、「見たい未来」を五感で思い描くことで、私たちはそこに向かう力を手にすることができる。

だからこそ、理念やビジョン、目標を掲げた時には、それがどんな情景なのか、心で、体で、感じ取ってください。
そのイメージが、あなたを今日の一歩へと導いてくれるはずです。

行動を変えたいのなら「視点」を変える

「問題が発生したのと同じ次元では、その問題を解決することはできない。」
これは、物理学者アルベルト・アインシュタインの有名な言葉です。問題の本質は、多くの場合、出来事そのものにあるのではなく、「その出来事をどのように見ているか」に隠れています。


この考え方は、ビジネスやマネジメントの現場でも非常に示唆に富んでいます。特にリーダーの仕事においては、「視点」に注目することが極めて重要です。なぜなら、メンバー一人ひとりの行動や判断は、「何をどう見ているか」によって決まるからです。


行動を変えるには、視点を変える必要があります。そしてその変化を導けるのが、リーダーという存在だと考えます。


この記事では、「リーダーの仕事とは、チームの視点を変えることである」というテーマのもと、視点がどのように行動や成果に影響するのかを示していきます。

行動の選択は、どの視点で物事を捉えるかで決まる

冒頭で示したように、人の行動は「事実」そのものではなく、「その事実をどう捉えたか」で決まります。


たとえば、営業目標を達成できなかったとき、「自分の努力が足りなかった」と考える人もいれば、「商品力が低いから仕方ない」と感じる人もいます。どちらの捉え方をするかで、その後の行動は大きく変わります。


前者の視点では、「次は工夫してみよう」「お客さまの声をもっと聞こう」といった改善行動が生まれます。一方、後者の視点では、他責になり、「どうせ頑張っても無理だ」といった諦めが先に立ちやすくなります。


つまり、私たちは現実に反応しているのではなく、「現実をどう見ているか」に反応しているのです。
このように、視点が変われば行動が変わる。だからこそ、リーダーは「部下の行動を変えたい」と思ったときには、まず「その人の視点」に注目する必要があります。

目的を達成するための行動の選択は、現状の捉え方で決まる

「なぜ、この行動を選んだのか」という問いに対し、人はたいてい「今の状況ではこれしかない」と答えます。


これは裏を返せば、「現状の捉え方」によって、選べる行動の幅が決まってしまっているということです。


たとえば、ある部下がなかなか相談に来ない、報告が遅れる、といった行動を取っていたとします。リーダーが「やる気がないのだろう」「主体性が足りない」と決めつけると、その部下への関わりは叱責や注意中心になりがちです。


しかし、ここで視点を変えて、「この部下は、もしかすると自分に対して話しかけにくさを感じているのではないか」「過去のやり取りで委縮させてしまったのではないか」と捉え直してみると、まったく違う現実が見えてきます。


実際に振り返ってみると、以前の会話で無意識に強い口調で返していたり、否定的な反応をしていたことに気づくかもしれません。そこで、リーダーの方から歩み寄ることで、部下の行動は徐々に変わっていきます。


このように、リーダー自身が視点を切り替えることで、部下の行動の“意味”を理解できるようになり、関係性の改善や信頼構築につながります。


このように、目的を達成するためには、現状の捉え方=視点が重要なカギになります。視点が固定されたままだと、行動はいつも同じになり、成果も変わらないのです。


リーダーは、チームが「現状をどう捉えているか」を常に観察し、必要に応じて視点の転換を促すことが求められます。

同じ視点で捉えていて、問題が解決しないなら視点を変える

問題が長期間にわたって解決しないとき、多くの人は「もっと努力すべきだ」「やり方がまずかった」と考えます。


もちろん努力や方法論の見直しも重要ですが、それ以前に考えるべきなのは「そもそも私たちはこの問題をどう見ているのか」という視点の部分です。


心理学では「認知の枠組み(フレーム)」という考え方があります。これは、私たちが物事を理解し、意味づける際の“ものさし”のようなものです。


たとえば、「売上が下がっている」という事実があったとして、「チームのやる気が低いからだ」と捉えるのか、「市場が変化しているのに対応できていないからだ」と捉えるのかで、打つべき施策は大きく異なります。


同じ枠組みのままで、何度も同じ問題にぶつかっているなら、それは「行動の限界」ではなく、「視点の限界」かもしれません。


リーダーが持つべき問いは、「もっと頑張るにはどうすればいいか」ではなく、「この問題を別の角度から見たら、何が見えるか」です。

対立は、各々の視点のぶつかり合いである

職場で起こる対立の多くは、価値観や性格の違いというより、「物事の見え方の違い」から起こります。


たとえば、部下Aは「スピード重視」、部下Bは「丁寧さ重視」。この二人が一緒にプロジェクトを進めると、「なぜそんなに急ぐの?」「なぜそんなに時間をかけるの?」という不満がぶつかり合います。


これは、どちらが正しい・間違っているという話ではありません。あくまで「見ている景色」が違うだけなのです。


リーダーがやるべきことは、この対立を解消するために「共通の目的」を再確認させること。そして、各々の視点に意味があることを認めながら、視点の“重なり”を探すことです。


この作業には時間がかかるかもしれません。しかし、それを怠ると、根本的な誤解が解けないまま、表面的な折衷案だけで物事を進めてしまうリスクがあります。

葛藤も自分、または組織固有の視点のぶつかり合い

「やりたいけど、できない」「進めたいけど、不安がある」――こうした“葛藤”もまた、視点の衝突によって生まれます。


たとえば、ある社員が「新しい提案をしたい」と思っているのに、なかなか行動に移せないとします。その内面では、「自分のアイデアには価値がある」という視点と、「失敗したら評価が下がる」という別の視点がぶつかっているのです。


組織全体でも同じことが起きます。「変革すべきだ」と感じながらも、「今の仕組みを壊すのは怖い」といった葛藤は、視点の複数性から生じています。


リーダーは、このような葛藤の背景にある「対立する視点」を丁寧に言語化し、バランスのとれた捉え方に導く必要があります。


具体的には、「失敗しても挑戦が評価される風土」をつくったり、「どんな視点も一度は受け止める対話の場」を設けたりすることで、葛藤を前向きな力に変えることができます。

おわりに:視点を変えることで、チームは変わる

リーダーは、チームを先導すると同時に、チームの“見方”を変える存在でもあります。
視点を変えることは、価値観を揺るがす行為でもあるため、決して簡単ではありません。抵抗があるのも当然です。

しかし、視点を変えることでしか、乗り越えられない壁があるのもまた事実です。
行動を変えるには、まず視点を変える。


チームを変えたいなら、チームが世界をどう見ているかに寄り添い、その見方を少しずつ拡張していくこと。それこそが、リーダーに求められる最も繊細で重要な仕事です。