営業センスのいい社長ほど内部組織がおろそかになる

大阪市内で3店舗を経営するお花屋さんの2代目社長。

先代から引き継いだ時には1店舗しかなかったが、今では2店舗増え3店舗を経営している。

社長はもっと店舗を増やして、大阪で一番の花屋を目指している。決して無理な話だと思わない。花の目利きには自信があり、他社には負けない、強みだ!この強みを生かして、一般のお客様だけではなく、企業の常連客を増やしたい。

そんな思いがある社長は営業に集中する。社内にいるよりは、ビジネス交流会などで企業の社長との人脈を広げている。

そのおかげで企業の式典のお祝い用で、蘭の鉢植えなどの注文が増えている。

売上も利益もどんどん増えていくにつれ、社員は忙しさを増す、一方で社長はさらなる売上拡大を考え、他地域への販路拡大を考える。

営業センスのいい社長ほど社内が乱れる

そんな時に、社長の心を砕く状況に遭遇する。

外を飛び歩いていて社内にいることが少なかったが、ある時社内の業務に目を向けてみて驚いくことになった。

受注、配送、経理作業・・・などの社内作業に統一性、一貫性が無くバラバラ。社員一人一人が行き当たりばったりで、自分独自の方法に固執する。

顧客からのクレームが出てこないのが不思議なぐらいだ、人が休むと業務が止まってしまいかねない。

たまらず、社内のことをまかせていた部長を問い詰める。

しかし、部長は反省するどこか、逆に「社長が普段いないからですよ!」と反論する

社長は思う、これ以上受注が増えると、クレームにつながる。これまで築いてきた企業の信頼を失いかねない。

部長が言うように、営業をひかえて、社内作業を整備する為に、社長自らが指揮をとらなければならないと思う。

この問題はどう対処するのか

さて、読者の方に質問です。

この社長の次にどんな行動に出ればよいのでしょうか?

人脈作りなどで外出するのでなかう、社内作業の整備の指揮を執った方が良いのでしょうか?

もちろん、社内の整備をしなければいずれ近い将来には大きなクレームになりかねないので、早く社内をととのえる必要があります。

それで、どのように社長は社内整備のための指揮をとれば良いかがポイントになりそうです。

そこで、この社長にした質問は、

「社長が思っていた業務プロセスは他の社員は知らなかったのですか?」

社長の答えは、「以前は出来ていたし、部長が私よりもよく知っているし、できるはず」

次の質問は

「社長が人脈を作るのは何のためですか?」

社長の答えは、「もちろん売上の為で、成果は出ていると思っている」

ここまでで、この会社の課題は、社長が不在であることではないことが分かります。他にも質問を重ねて分かってきたことは次の4つです。

  • 社長と部長のそれぞれの役割の共有が出来ていない
  • 実は、パート社員も含めた、社員の役割の共有も無い
  • 部長の指導力が足りていない
  • 部長の役割認識の理解がずれている

社長が取り組むのは社内の仕組みづくり

これらから、社長が取り組まなければならないことは、社内の仕組みづくりです。

そこで、私が社長に提案したことは、

  1. 3店舗の立地やターゲット顧客層からのポジショニングを明確にする
  2. そのポジショニングを生かす為の社員一人一人の行動を見えるかする
  3. その行動を推進するための社長、部長、社員、スタッフの役割を明らかにする

この3つを早急に作りあげ、部長と社員と共有することが急務です。

その後に、部長を中心として業務プロセスを作りあげればよいでしょう。社長がするのは、部長のサポートであって、自らが先頭に立ってプロセスを作ることではありません。

急がば回れということわざがあります。

直ぐにでも業務プロセスに手を付けたいところですが、社長がすることによって、

  • 部長の指導力が上がってこない
  • 社員は直属の上司である部長ではなく、社長の指示を聞く
  • 社長が社内にいないと業務プロセスが上手く機能しない

といったリスクが考えられます。

どんなに優秀な人にも存在する盲点

それよりも、1~3の仕組みを作りあげ、部長の役割として業務プロセスを改善することで、上記3つのリスクが改善され、社長は外の営業に集中し、部長が社内で業務プロセスの日々の改善に注力できることになります。

こんなすんなりと絵に描いたように上手くいくことはありません。部長は指導に苦労することでしょう。社員は新たな業務プロセスに直ぐにはなじまないでしょう。

そして、目の前で起きている問題に直ぐに対応したいと思うのも人の感情です。その対応を待っている人も、「直ぐに対処して欲しい」と願うのも当たり前の感情です。

しかし、この感情が人の盲点になります。会社が未来に向かって継続的に成長していく、その為の優先事項が見えなくなってしまうのです。

この盲点に気づかずに、目の前の問題にパッチワーク的に対処することで、根本的な問題解決ができず、いつまでも会社が成長しない、似たような問題が定期的に起きてしまう。ということになってしまう。

また、この盲点の問題は、人が学び、経験を積むことで解決するといった、単純なことでは済まないことです。

盲点は人の感情によってもたらされると考えます。その感情は、家族、自社の社員などといった身近になり、大切に思えば思うほどに理性を失って感情が優先する。

学び、多くの経験を積むほどに、他社や他人のことであれば客観的に判断し的確な判断ができるのに、自社や家族のことになればその客観性を失ってしまう。

学んだことや過去の経験知からくる知恵や客観性がどこか見えないところに行ってしまう。これが盲点です。

コーチをつける意義

この人の盲点に早くから気づいていたのが、米国シリコンバレーのリーダーたちではないでしょうか。

GAFAと呼ばれる、Google、Apple、Facebook、Amazonに代表される成長企業のリーダーたちは個人の経営者としての優秀さや経験値に関わらず、コーチやメンターをつける。

Googleの元CEOのエリック・シュミットがコーチ感について語っています。

ベンチャーキャピタリストのジョン・ドーア氏からコーチをつけるようアドバイスを受けた時に、まず初めに思ったことは

「私はCEOであり十分に能力もある。ジョンは私が間違ったことでもしていると思っているのか」という日本の多くの経営者と同じような感情を持ちました。

ところが、コーチをつけた後、そのコーチ感が次のように変わりました。

「コーチは私を観察し、私のベストを引き出す存在。コーチは別の視点で事象を観察し“わたし”の言葉で問題のアプローチ方法を問いかける存在」

まさに、人の盲点に気づかせるのがコーチの役割であることを示したコメントです。

今回の記事の事例は決して珍しい事例ではありません。そして、社長の能力不足、経験不足をあらわした事例でもありません。

他人のこと、他社のことはよく気付くのに、自分のこと自社の事には気づかない盲点が、全ての人にあることを示した事例です。

時代が変わろうとしている今、客観的な判断、選択が求められています。そしてその判断、選択は社長にゆだねられることが多くあります。

それらをより正しく、客観的に行うことが未来を決めることでしょう。だからこそ、人の特性を知り、それに合わせた方法を選択する必要があります。

一つのシステムとして、コーチを使うことを皆さんも考えてはどうでしょうか!

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