先代社長から会社を引き継いだ新しい社長の方々からよく聞く問題の中に、「先代からの幹部社員が言うことを聞かないんだよね」というようなことが多く聞かれます。
会社を先代よりもさらに発展させよう。時代の流れに合った会社に変えていこう。業界が低迷している中で会社を変革していかないと、業界の低迷のままに会社も低迷してしまう、今のうちに会社を変えていこう。
というように会社のことを思い、社員のことを思って会社を変えていこうと思えば思うほどに幹部社員が反対する。こんなことが起こっていませんか。
そこで今回は、幹部社員を含めた社員が社長の指示に従わない理由やその対処方法をまとめていこうと思います。
内容としては
- 社長も社員も自分が正しく相手が間違っている
- あなたのマネージメントに矢印をあてて考えてみませんか
- 分かっていても人は行動に起こせないことが多くあります
以上の3つの内容をそれぞれの対応方法も含めて示していきたいと思います。
社長も社員も自分が正しく相手が間違っている
それでは、はじめに「社長も社員も自分が正しく相手が間違っている」の話から進めたいと思います。それで、まずは社長のあなたに質問です。「あなたはどうして会社を変えたいと思うのですか?」
なにを今さら当たり前の質問をするんだと思われる方も多いと思います。会社を変えたいと思う背景には、このままだと会社が良くならない、それどころか衰退する。などの危機感があるかもしれません。
そして、その危機感が、あなたは正しいと言う確信がありますよね。でも、あたが、その確信のもとで実施しようとする施策を見た時に、社員はそんなことをすれば、昔からの顧客からの反感をかう、社員がついてこなくて、会社を辞めてしまうなどと思うかもしれません。そして社員もあなたと同じように、自分の考えや行動が正しいと思っているかもしれないんです。そして変化することに危機感を感じるのです。
つまり、社員も会社のことを思って、あなたのやろうとしていることに反対しているのです。お互いに自分が正しくて、相手が間違っていると思っている。この状況の扱いを間違ってしまうと、同じ「会社を良くしたいと」という目的を持ちながら対立が続くことになります。
では、このような場合はどのように対処していけばよいのでしょうか。
まず初めにすることは、反対する社員に目を向けることではありません。あなた自身の目的を明らかにしてください。会社を変革しようと思う、あなた自身の目的です。
それは、会社をどのように変えていきたいからですか?売上や利益をどのくらいにしたいのですか?売上や利益が目的に達したら社員にはどのように還元されるのでしょうか?そして会社はどんな会社になりますか?ただ会社を変えなければならないと思うのではなく、具体的にどうなりたいかを明らかにしましょう。
そして、その目的(ヴィジョンといえるかもしれません)が具体的に表現できるようになってから、反対する社員と向きあいましょう。でも、「なぜ反対するんだ、理由を聞かせてくれ」なんて言ってはダメです。これは喧嘩をうっていることになりかねません。
ちょっと話がずれますが、なぜ(Why)の質問は、相手の価値観や信念に投げかける質問です。あなたは、ただ理由が知りたいだけかもしれませんは、聞かれている方は責められていると感じたり、取り調べのように受け取る可能性が大きくあります。
責められたり、取り調べを受けたりしたら、人は良い気がしません。それで本当は思ってもいないことを返答したりすることも出てきます。例えば、あなたが「どうして私の指示に従わないんだ?」なんて質問すると、社員は「こんなバカな施策に従えるわけがない!」なんて応えるかもしれません。そうなったら、感情のぶつかり合いですね。
そこで、もう一度自分に問いかけてみてください。なぜ(Why)の質問をする目的は何でしょうか?理由を知りたいからでしょうか。理由を知ってどうするのでしょう。
おそらくですが、理由を知ることで、改善点を見つけたり、今の関係性をもっと良くしたい。つまりは仕事の成果を高め、会社を良くしたいという目的があると思います。ただ、相手を困らせたい、いじめたい、なんていう気持ちは微塵もないと思います。
ならば、改善点を見つけるならば、なぜ(Why)ではなく、何を(What)をどのように(How)やったかの質問になります。
そして、本題にもどり、関係性の改善や、ゴールの共有が目的ならば、社員がおこなっている行動によって、社員は何を得ようとしているか、どんな成果を求めて今の行動をおこなっているかが質問によって求める答えになります。
そこで、あなたが社員に向き合って聴く質問は、「今の活動によってあなたが求めている成果はどんな成果ですか?その成果が得られると会社は何が得られますか?」「そしてその成果が得られると、あなたがその成果によって得たいものは何ですか?」
この質問によって、求めているゴールへと近づいていきます。そして、あなたも社員も、会社を良くしたい、社員の成長や働き甲斐を高めたいといった共通のゴールを持っていることがお互いに理解できるようになります。(但し、お互いが自分の私利私欲しかなければ、当然共通のゴールにたどり着きません)
お互いが、同じゴールに向かっているんだと分かることが大事です。そうすれば、そのゴールに向かって何をすれば良いかの会話が可能になります。
そして、ここでも忘れてはならないポイントがあります。それは、お互いが自分の意見を導き出すときの「前提」です。例えば、現状の市場環境の認識が違っていれば、当然、どんな打ち手があるかの意見も違ってきます。なので、意見が導き出される「前提」も含めて会話を進めましょう。
同じゴールも持っていながら、対立しているならば、このような会話でまずは対立がなくなるはずです。そして、貴重な社員の能力が引き出されることになるので、有効な方法だと思いますので、是非、実践して欲しいと思います。
あなたのマネージメントに矢印あてて考えてみませんか
そして、このようなプロセスが進まない場合があります。それが2番目の矢印をあなたのマネージメントに向けましょうという内容になります。
矢印を自分のマネージメントに目を向けましょう。そのカギになることは、人の本質的なことです。ヒトというのは、「自分が言っていることは、その意味や意図が100%他人に伝わると勘違いしている」ということなんです。
でも本来はその逆で、「自分の言っていることは、その意味や意図が他人には伝わらない」が正しいんです。それは相手があなたの話をまじめに聞いていたとしても伝わらないのです。
ここでもちょっと話が横道にそれますが、伝わらない理由で、人の情報収集の3つの特徴があります。それは、人は情報収集に関して、削除、歪曲、一般化の3つのことをしてしまうのです。
削除とは、ずばり情報を削除して捉えることです。あなたが伝えたいことを社員は全て聞き漏らさないことは100%ありえないことと理解してください。必ず、情報の削除が行われます。その削除がその後の活動に大きな影響を与えるものであることもあるのです。
歪曲とは、あなたが言っていることをその意図通り受け取らない。自分の解釈で受け取ってしまうことです。あなたが「直ぐに実行してください」と言ったとしても、社員の解釈で「1か月以内ならいい」「まあ、やれる範囲でいいじゃない」なんていうことが普通に起こると思いましょう。
一般化とは、あなたが具体的に人の名前や会社名を上げながら、具体的に話したとしても、社員はあなたの言葉から具体的な人や会社が消えた状態で理解するということです。あなたが「田中商事の高橋部長に面談して商談をすすめよう」と言ったとして、社員は「見込み客の管理職に合うことが大切なんだ」なんて理解してしまうということです。
あなたは信じられないと思うかもしれませんが、それが人の特徴で、特定の社員にだけ起こる現象ではありません。あなたも他人の話しを聞いているときには起きている現象です。だからこそ、その特徴を理解したマネージメントが必要になるのです。
ではどんなマネージメントが必要になるのかですが、山本五十六の名言があります。「やってみせ、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ」これを別の言い方をすると、イメージの共有、具体的な事例、実践の体験そしてフィードバックと言い換えられます。
あなたが伝えたい大切なことであれば、伝えるだけではなく、それが実践されているイメージを社員にも話させながら違いを修正し、共有することが必要です。その時に具体的な事例、自社になければ他社の事例でも良いので具体的な事例を共有すること有効です。
そして、実践してみる。直ぐに成果がでることは考えないことです。実践した内容を検証し、どこを改善していくのかをしっかりフィードバックしていくことです。会社の中で、あなたを含めて誰も経験したことの無いようなチャレンジならば、なおさらフィードバックが大切です。そして少しずつで良いの前進していくことです。
分かっていても人は行動に起こせないことが多くあります
最後に、あなたが理解していく必要があるのは、人は分かっていても行動できないことが普通にあるということです。「分かりました!と返事したのに、まったく行動しないんだ」なんていうことが普通に起こると考えましょう。
これが起こる要因として少なくとも二つのことが考えられます。そのうちの一つが優先順位の問題になります。昔からずっとやり続けてきた仕事が目の前にたくさんあって、新しい取り組みをしなくても毎日が忙しく過ぎていく。
営業ならば、新規の顧客開拓に多くの時間を使いたいけれど、既存の顧客のメンテナンスを怠るとクレームになったり、既存顧客からの売上が落ちるかもしれない不安がつきまとい、新規顧客の開拓に時間がさけない。
こんなことが日々起こり、分かっていても社長の指示通りの活動ができないということが起こります。こんなケースの場合は、通常の業務の整理をする必要があります。社長の指示通りの行動ができるように隙間をつくる。もっとくだけて言うと、指示した行動ができないというような言い訳ができない状態をつくることです。
そして、重要なのは人事評価のポイントです。社長の指示通りに動かなくても、人事評価が変わらない、あるいは、他の仕事を進めた方が高い評価が得られるというような評価はしないことが大切です。
また、ちょっと話が横道に入りますが、人は言葉よりも行動を信じます。例えば、会社の戦略で営業担当者は、顧客の現場担当者ではなく、社長や管理職に面談して会社の上層部を攻め落とそうというような行動が求められたとします。
当然、営業担当者は上層部に気に入られれば、営業がスムーズに進むことは理解できます。ところが会社の人事評価は売上額だとすると、これまで現場担当者に合っていて、売上が出ているになら、上層部にアポイントを取って合う手間よりもこれまで通りに活動で売上を稼ごうとします。
かといって、売上目標を極端に高くして、行動を変えなければ達成できないような目標にしてしまうと、いっぺんでやる気がなくなってしまうことも起きてしまいます。そこで、あなたの指示通りに動くことが評価と連動する制度を設計することが必要です。
そうやって、外堀をうめても行動しないことが起こります。それは指示通りに動いているけれど成果がでない、または指示通りにやろうとしてもできないというケースです。
それは、明らかに能力、スキルの不足が考えられます。その場合は、経験を積み能力をみにつけていくか、研修などでスキルをつけていくことが求められます。
また、横道になりますが、企業の研修で社員が成長しないということをよく耳にしますが、それは研修のための研修になっている可能性があります。毎年研修予算が組まれているから何かやらなければならない。あるいは、社長は社員に成長して欲しいと思って設定した研修が、社員にしてみれば、目的が分からなかったり、必要性を感じなかったりする場合があります。
研修は目指す行動を促進させる目的が必要で、その目的が社員と共有されていると大きな効果が期待できます。
ここまで社長の指示を聞かない幹部社員というテーマで書いてきましたが、総じて言えることは、社長のあなたと、幹部社員とのコミュニケーション不足と言えます。そしてここでのコミュニケーションとは仲良くするということではありません。
仕事に関して、お互いが考えていること、現状の課題そして未来のビジョンを理解しあうコミュニケーションです。本来話さなければ、ならないテーマでお互いが話す環境づくりをはじめていきましょう。これからの時代は可能限り人を巻き込むことが求められます。そして多様な人材の能力を発揮させることがリーダーに求められてきます。
社員の能力を最大限引き出して、未来に輝く会社をつくりましょう。
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