
「自分についてきてほしい」と思ったことはありますか?
あるいは「なぜ、あの人はついてこないのか」と感じたことは?
この問いにリーダーとして向き合うとき、私たちは一つの本質的な分岐点に立たされます。それが、「リーダーシップ」と「エゴ(自我)」の違いです。そして、その違いに気づけるかどうかが、「リーダーの自覚」を持っているかどうかを決定づけるのです。
1.リーダーシップとエゴの違い
リーダーシップとは、組織やチーム、あるいは社会全体の未来に向かって、人々を導く力です。それは、他者の可能性を引き出し、困難の中でも前を向いて進む「共創の力」ともいえるでしょう。
一方、エゴとは「自分の存在価値を証明したい」「自分が正しいと認めさせたい」という内的な欲求からくる行動です。自己顕示、支配欲、承認欲求に突き動かされるリーダーは、周囲の信頼を徐々に失っていきます。たとえ立場が上でも、人は「エゴに従いたい」とは思いません。
この違いを一言で表すならば、
「リーダーシップは“他者中心”、エゴは“自己中心」です。
2.その違いはどこから生まれるのか
では、なぜ「エゴに支配されるリーダー」と「本当のリーダー」に分かれるのでしょうか?
その分岐点は、自身の「存在理由」と「目的」の捉え方にあります。
■ エゴに支配されるリーダーの特徴
- 自分の立場や評価を守ることが優先
- 結果よりも「自分が正しいこと」に固執
- 人の失敗よりも、自分のメンツを重視
- チームの成果があっても「自分のおかげ」にしがち
■ リーダーシップを持つ人の特徴
- 自分が中心ではなく、「目的」が中心にある
- 周囲の成長を喜び、自らの成果よりも全体の前進を重視
- 「自分の正しさ」ではなく「何が正しいか」に軸を置く
- 評価は結果についてくると理解している
■ とても優秀なのに“もったいない”人の実例
最近、ある企業のマネジメント研修で、非常に印象に残る人に出会いました。彼は、いわゆる「スーパー社員」。仕事のスピードも正確性も申し分なく、営業でも技術でも一定の成果を出し、上司からの信頼も厚い。加えて、書籍やセミナーで学んだ知識を持ち合わせており、「成功の法則」についても語れる人です。
しかし──彼には決定的な欠点がありました。
自分にとって意味のない会議は欠席し、突然の休暇も少なくない。周囲の社員が自分と同じレベルで動けないことを「努力不足」と切り捨てる。そして、他人のミスや仕事の遅れに対しては容赦なく批判。結果、チームの空気は冷え、相談されることも減り、徐々に孤立していきました。
彼自身は「自分は正しいことを言っているだけ」と思っているのかもしれません。でも、そこには“目的”が欠けているのです。
「成果を出すために、誰とどう関わるのか」
「組織全体として前進するために、今の自分はどう在るべきか」
こうした視点がないまま、自分の能力や正しさにこだわり続ければ、どれほど優秀でも人はついてきません。リーダーとしての自覚がなければ、力は逆効果になる。まさに“もったいない人”の典型例でした。
3.リーダーの自覚を持って進む行動
「リーダーの自覚」とは、役職や肩書ではなく、「自分が他者の人生に影響を与えている存在である」という意識のことです。この自覚があるからこそ、人はエゴに流されず、「目的に生きる覚悟」を持つことができます。
では、リーダーとしての自覚を持ち、エゴに流されずに行動するには、何を意識すればいいのでしょうか?
① 自分に問いかける「目的」は何か?
日々の意思決定や行動の前に、次の問いを自分に投げかけてください。
「この判断は、自分を守るためか? それとも、目的に向かうためか?」
この一問が、あなたを「自己中心」から「目的中心」へと引き戻してくれます。
② 評価は「結果」ではなく「行動の軸」にする
自覚あるリーダーは、自分が“どういう姿勢”で日々を生きているかにこだわります。他人に認められるかどうかよりも、「自分が信じる価値観に沿って行動できているかどうか」を重視します。
③ 批判や失敗を「自覚のチャンス」に変える
リーダーは常に見られています。批判も受けます。思い通りにいかないことも多々あります。
しかし、それは「自覚を深めるチャンス」でもあります。
- なぜ相手はそう感じたのか?
- 自分の言動がどう映っているのか?
- 本当に目的に沿った行動だったのか?
この内省が、自覚の深さを育てていきます。
最後に:エゴを超えて、本当のリーダーへ
リーダーの役割は、誰かに命令することではなく、誰かの「可能性を開く」ことです。そして、そのためには「自分がどう見られるか」ではなく、「自分が何に仕えているのか」を見つめる必要があります。
エゴは人を動かせても、心は動かせない。
自覚を持ったリーダーだけが、人の心と未来を動かすことができる。
あなたの影響力は、想像以上に大きい。
だからこそ、今こそ「リーダーの自覚」を持って歩み出してください。