社員のモチベーションを意識したら、上がらない!

モチベーションは“待遇”だけでは上がらない

「社員のモチベーションを高めたい」と考えると、まず思い浮かぶのは「給与を上げる」「福利厚生を充実させる」といった待遇面の改善かもしれません。もちろん、待遇が劣悪であればモチベーションは確実に下がり、離職にもつながります。

しかし、一定の水準を満たしている場合、それ以上の待遇改善はモチベーションを“上げる”ことには直結しません。むしろ、給与や手当を一度上げてしまうと、それが「当たり前」となり、次第に効果は薄れ、長い目で見ると“下がっていく”という現象すら起こります。

中小企業にとって、待遇や給与の抜本的な見直しには限界があります。大企業のように潤沢な資金を投じるのは難しく、同じ土俵で戦うのではなく、“別の方法”で社員のやる気を引き出す必要があります。

では、その「別の方法」とは何か?

答えは、社員が日々の業務の中で「自分の仕事が誰かの役に立っている」と実感し、「小さな成功体験」を積み重ねられるような環境づくりにあります。

日常の中にモチベーションを生む仕組みを作るには?

社員のモチベーションを高めるには、目的意識をベースにした行動計画と、日々の業務を通じたフィードバック文化を整えることが重要です。

1.行動計画は“目的”と“スモールステップ”の設計が鍵

モチベーションは、仕事の目的が明確になることで初めて本質的に湧いてくるものです。「この仕事は、誰に対して、どんな価値を提供しているのか」「自分の役割が社会にどうつながっているのか」という“目的の可視化”が重要です。

たとえば、以下のような問いかけが有効です:

  • この業務は、どの顧客に、どんな価値を提供しているか?
  • この作業が完了すると、社内の誰の業務がスムーズになるか?
  • どのようにして社会に貢献しているのか?

さらに、この目的を達成するために必要なのが“スモールステップ”の設計です。

  • 大きな目標を、意味ある小さなステップに分解する
  • 進捗を見える化し、日々の達成を確認できる仕組みを作る
  • 小さな行動が積み重なり、最終的にどんな貢献につながるかを伝える

たとえば、営業チームなら「今月の商談10件達成」という目標の前に、「顧客リストを10件整理する」「2件の既存顧客に改善提案を送る」といった具体的なステップを設け、それを毎週確認する。これにより、日々の努力が最終的な成果と貢献に結びついていると実感できます。

目的が明確になり、小さな成功が日々可視化されると、社員は「自分の仕事には意味がある」と感じ、自律的に動くようになります。

2.日常業務におけるフィードバック文化

フィードバックは、上司の「後回しにしてもいい業務」ではありません。むしろ、「部下の成長とモチベーションを引き出す」という観点では、最優先で取り組むべき仕事の一つです。日々の業務の中で、部下に対するフィードバックを丁寧に、かつ継続的に行うことで、組織全体のパフォーマンスにも直結します。

社員が「今の自分の仕事ぶり」を把握し、前向きな行動を継続するためには、上司からのリアルタイムなフィードバックが不可欠です。

  • 良い行動に対しては具体的な言葉で即時に褒める
  • 改善点についても“責める”のではなく“次への期待”として伝える
  • フィードバックの機会を制度化(週次ミーティング、1on1面談など)
  • フィードバックの質を高めるために、上司自身もトレーニングや学習を継続する

たとえば、製造現場で小さな改善を行った社員に対して、「この改善でラインの作業効率が5%上がったよ。ありがとう」と伝えることで、その行動が意味あるものだったと認識され、次の挑戦への意欲にもつながります。

上司にとって「部下の成果を見つけ、適切に評価し、伝える」ことは単なる管理業務ではなく、リーダーシップの本質とも言えるのです。

実践企業の事例に学ぶ

海外では、ハーバード・ビジネス・スクールが行った「小さな勝利(small wins)」の研究が有名です。日々の進歩を感じられる職場では、社員のモチベーションや創造性、生産性が向上することがわかっています。

日本でも、ある中小IT企業では、毎週の定例会議で「今週、誰がどのように貢献したか」を共有する時間を設けたことで、チーム内の信頼関係が深まり、退職率が減少したという報告があります。

また、製造業の現場で1on1面談を導入した企業では、上司と部下のコミュニケーションが密になり、小さな問題が早期に解決されるようになった結果、生産性が向上したという例もあります。

まとめ:今日から始める3つの行動

待遇や給与の改善が難しい状況でも、社員のモチベーションを高める方法はあります。その鍵は、

  • 社員が「誰かの役に立っている」と実感できること
  • 日常業務の中で「小さな成功体験」を得られること
  • そして「自分の仕事には目的がある」と理解できること

にあります。

今日からでも始められる、具体的なアクションを3つご紹介します。

  1. 今週の定例ミーティングで、貢献事例を1人1件共有する時間を設ける
  2. 部下に対して、週に1回は具体的なフィードバックを行う(上司の優先業務としてスケジュールに組み込む)
  3. 目標設定の際に、「この仕事は誰にどんな価値を与えるのか?」を問いかけ、スモールステップで進捗を見える化する

モチベーションは与えるものではなく、環境の中で自然に生まれるものです。リーダーの意識と行動の変化が、社員の内発的なやる気を引き出し、組織全体を前向きに変えていく第一歩となります。

部下の課題は、あなたの課題ではない

「“当たり前”だからこそ見落とす――課題の分離が部下の主体性に与えるインパクトとは」

部下にはもっと自発的に動いてほしい。
もっと自分で考え、挑戦し、責任を持って行動してほしい。
そう願うリーダーやマネージャーは少なくありません。

むしろ、それが当たり前の考え方であり、多くの企業でも「主体性のある人材を育てよう」と掲げられています。

しかし、実際の現場を見渡すとどうでしょうか。

「この件、君どう思う?」と一応は部下に意見を聞きながら、最終的な判断はいつも自分が下す。
「任せる」と言いながら、部下がやろうとすると気になって口を出してしまう。
「うまくいかなかったら自分の責任になるから…」と、つい手を差し伸べてしまう。

――こんな場面、思い当たることはありませんか?

実はこれ、部下の成長を願っているはずのリーダー自身が、無意識のうちに部下の課題まで引き受けてしまっている状態です。

そして、この状態が続くと、部下は「自分で考える必要がない」と感じ、ますます指示待ち・依存型の人材になってしまいます。

一見「良かれと思って」やっている行動が、実は主体性を奪ってしまっている。
そして、その背景には、「課題の分離」ができていないというリーダー側の構造的な問題があるのです。

本記事では、コーチングやマネジメントの根幹を支える「課題の分離」の視点から、なぜ部下の主体性が育たないのか、そしてどうすれば変えられるのかを深掘りしていきます。

「相手のために」と思ってやってきたことを、少し見直すことで、部下の行動は劇的に変わります。その鍵は、実は“自分がどう関わるか”にあるのです。

なぜ「課題の分離」が不可欠なのか?

「課題の分離」とは、「最終的にその行動の結果を引き受けるのは誰か」という視点をもって、課題を「自分の課題」と「相手の課題」に分けることです。

この考え方の源流には、心理学や哲学の視点に通じる「責任の所在」の問題があります。特にコーチングや人材育成においては、行動の主体と結果の責任を明確にすることが成果を左右します。

課題を分離することで、「誰が何を担うのか」が明確になり、部下は自ら考え、実行する主体へと成長します。

逆に、課題が未分離のままだと、部下は自分で考えようとせず「待ち」の姿勢になりやすく、上司の介入が増えるほどに、自律性が失われていきます。

現場で陥りがちな「課題の分離不足」

判断の先回りで主体性を奪う上司

「どう思う?」と聞くものの、判断を聞かずに自分で決めてしまう。そして、部下は意見を出す機会を持てなくなり、徐々に「自分は何も決められない」と感じてしまう。このような状況は、部下の判断を上司が奪ってしまう“課題の侵食”です。

“場づくり”を上司の課題と認識しない

会議や1on1で意見が出ないとき、上司は「部下が消極的」と見なしがちです。しかし、実際には、部下が安心して話せる「場」をつくることこそ、上司側の課題です。

意見が出ないのは、上司の働きかけや雰囲気づくりが不足していることに起因している場合が多いのです。

部下の課題を“代行”してしまう構図

「やっておいて」と依頼したタスクを、部下が取り掛かる前に上司が手を出してしまう。あるいは、完了前に口を出して軌道修正してしまう。これでは、部下は「自分がやる意味」を見出せなくなります。結果として、行動も成長も止まってしまうのです。

今日からできる“課題の分離”アクションプラン

「場づくり」を自分の課題として認識する

1on1や会議では、上司がまず質問を投げ、沈黙を受け入れる姿勢を示すことが重要です。発言しやすい雰囲気を意識的に設計することで、部下の思考と対話が動き始めます。

課題を具体化し、分けて共有する

たとえば、「提案資料の改善はあなたの担当」「優先順位の調整は私がフォローする」といった形で、業務の中で役割と責任を言語化し、お互いの行動領域を明確にして共有します。

振り返りの主導権を部下に持たせる

業務終了後やプロジェクトの節目に、「なぜその判断をしたのか?」「何を学んだのか?」を部下自身に語らせる場を設けます。上司はフィードバック役に徹することで、学習と成長の循環が生まれます。

まとめ:今日から実践できる「課題の分離」の第一歩

リーダーとして、部下に成長してほしい、主体的に動いてほしい。
そう願うのは当然のことですし、それ自体は間違っていません。

しかし、部下の主体性は「願うだけ」で育つものではありません。

むしろ、その芽を摘んでしまっているのは、他でもない私たちリーダー自身であることに気づくことが、最初の一歩です。

コーチングの本質とは、「相手を変えること」ではなく、自分の関わり方を変えることで、相手が自ら変わる“環境”をつくること。
そのために必要なのが、「課題の分離」という視点です。

今すぐ始められる、3つの小さなアクション

  1. 「これは誰の課題か?」を自問する習慣を持つ
  2. 部下に「任せたこと」は、任せきる勇気を持つ
  3. 週1回、1on1などで「課題の分離マップ」を書いてみる

主体性のある人材を育てたいなら、まずはリーダーが“手放す”こと。
課題の分離は、単なる理論ではなく、リーダー自身が変わる覚悟を持つ実践の入り口です。

今日からぜひ、あなたのリーダーシップにこの視点を取り入れてみてください。
きっと、部下との関係性も、組織の動き方も、少しずつ変わっていくはずです。

なぜ、上司は、部下のコーチングができないのか

企業内でコーチングを効果的に行い、気持ちよく成果を引き出すための方法

成果を早く出したい…成果を出せる人材に育ってほしい…。多くの経営者やマネジャーが、そんな「相手を変えたい」という思いに突き動かされ、つい部下にアドバイスや圧力をかけてしまいがちです。しかしこの「変えてやろう」とする姿勢こそが、コーチングを遠ざける最大の障害になっているのです。

コミュニケーションが圧力に変わり、信頼が揺らぎ、結果的に成果も成長も遠ざかってしまう。このジレンマに直面した時にこそ、「相手の成長は本人が主体的に選択してこそ、成果は生まれる」という本質的な視点が求められます。

成果と成長~企業のジレンマを乗り越えるために

企業としては、「すぐ結果がほしい」「部下には早く成長してほしい」という期待があります。しかし、その一方で、コーチングに必要な「待つこと」「対話に時間を使うこと」は、短期成果を求める構造においては後回しにされやすいのが現実です。

このジレンマを実感するのが、中小製造業のA社の事例です。A社長は、「もっとスピード上げてくれ」と部下に強く求め、具体的な指示と細かい承認作業を続けた結果、一時的に業績は上がったように見えました。しかしじわじわと部下からは「指示を待つだけの人たち」が増えてしまいました。そこで「あなた自身ならどう変えたい?」と質問に変えてみると、部下から自発的な改善案が出てきて、品質も納期も同時に向上したのです。

短期成果を追うあまり、本質的な成長を犠牲にしてしまうことのないよう、「成果と成長を両立させるための対話」をいかに組織に定着させるかが、今まさに求められています。

「相手を変える」の罠:失敗の原因と見直し

「もっとやる気を出して」「考え方を改めてほしい」~と強く願うとき、つい圧が対話にのしかかってしまいます。この圧が強まると、部下は「やらされ感」や「拒否感」を抱いてしまい、信頼関係が揺らぎ、結果として学習も停滞してしまうことになります。

心理学的には、自己決定理論(Self-Determination Theory, Deci & Ryan)が示すように、人は「自分で選び、意思を持って行動するときにこそ、最もパフォーマンスを発揮しやすい」と説かれています。

この視点を持つことで、「相手を変える」という発想を「相手が自ら変わりたくなる環境を作る」というコーチングの本来の姿勢に変えていくことが重要な視点になります。

何もしない勇気の本質:アドバイスは不要、立ち止まって聞く力

多くのマネジャーは、自らの知識や経験を用いて部下を指導することこそ、マネジメントの任務であり役割だと考えがちです。

たしかに、経験前提のアドバイスや判断力が必要な場面も少なくありません。しかし、コーチングにおいてはめむしろ「自ら動かずに部下に考えさせる」ことのほうが優先されます。

これは、一見すると「何もしない上司」に見えることもあるかもしれません。実際、周囲からは「放件している」「部下任せだ」と評されるリスクもあるでしょう。

しかしここにこそ、勇気が必要なのです。

相手を信じ、やる気と成長力を信頼して「話さず」「口出ししない」。上司の存在感や有用感を控えることは、ある意味「我慢」を要する行為でもあります。

これは放置ではありません。「見守る」「相談を待つ」「真に助けが必要なときにだけ手を展べる」という、高度なマネジメント技術です。

「何もしない勇気」は、何もしないことを行動で選択し続ける、最も難易度の高いリーダーシップの形とも言えるでしょう。

まとめ:「変えよう」から「変わるのを待つ」へ

「相手を変えてやろう」とする姿勢が、コーチングの本質を損ねてしまいます。部下の成長は、本人が自ら考え、選び、行動してこそ本物になります。

そのためには、マネジャー自身が「何もしない勇気」を持ち、自分の存在感を控え、部下が考え行動する空間を守ることが不可欠です。

今日から実践できる小さな一歩として、1on1の場面でアドバイスを飲み込み、「あなたはどう考える?」という一言を意識してみてください。

“信じて、待つ”。この姿勢こそが、これからのリーダーに最も必要な資質ではないでしょうか。短期的な視点ではなく、少し長い目で見れば、“信じて待つ”ことが、結局は早道であることに気づくと思います。