部下の課題は、あなたの課題ではない

「“当たり前”だからこそ見落とす――課題の分離が部下の主体性に与えるインパクトとは」

部下にはもっと自発的に動いてほしい。
もっと自分で考え、挑戦し、責任を持って行動してほしい。
そう願うリーダーやマネージャーは少なくありません。

むしろ、それが当たり前の考え方であり、多くの企業でも「主体性のある人材を育てよう」と掲げられています。

しかし、実際の現場を見渡すとどうでしょうか。

「この件、君どう思う?」と一応は部下に意見を聞きながら、最終的な判断はいつも自分が下す。
「任せる」と言いながら、部下がやろうとすると気になって口を出してしまう。
「うまくいかなかったら自分の責任になるから…」と、つい手を差し伸べてしまう。

――こんな場面、思い当たることはありませんか?

実はこれ、部下の成長を願っているはずのリーダー自身が、無意識のうちに部下の課題まで引き受けてしまっている状態です。

そして、この状態が続くと、部下は「自分で考える必要がない」と感じ、ますます指示待ち・依存型の人材になってしまいます。

一見「良かれと思って」やっている行動が、実は主体性を奪ってしまっている。
そして、その背景には、「課題の分離」ができていないというリーダー側の構造的な問題があるのです。

本記事では、コーチングやマネジメントの根幹を支える「課題の分離」の視点から、なぜ部下の主体性が育たないのか、そしてどうすれば変えられるのかを深掘りしていきます。

「相手のために」と思ってやってきたことを、少し見直すことで、部下の行動は劇的に変わります。その鍵は、実は“自分がどう関わるか”にあるのです。

なぜ「課題の分離」が不可欠なのか?

「課題の分離」とは、「最終的にその行動の結果を引き受けるのは誰か」という視点をもって、課題を「自分の課題」と「相手の課題」に分けることです。

この考え方の源流には、心理学や哲学の視点に通じる「責任の所在」の問題があります。特にコーチングや人材育成においては、行動の主体と結果の責任を明確にすることが成果を左右します。

課題を分離することで、「誰が何を担うのか」が明確になり、部下は自ら考え、実行する主体へと成長します。

逆に、課題が未分離のままだと、部下は自分で考えようとせず「待ち」の姿勢になりやすく、上司の介入が増えるほどに、自律性が失われていきます。

現場で陥りがちな「課題の分離不足」

判断の先回りで主体性を奪う上司

「どう思う?」と聞くものの、判断を聞かずに自分で決めてしまう。そして、部下は意見を出す機会を持てなくなり、徐々に「自分は何も決められない」と感じてしまう。このような状況は、部下の判断を上司が奪ってしまう“課題の侵食”です。

“場づくり”を上司の課題と認識しない

会議や1on1で意見が出ないとき、上司は「部下が消極的」と見なしがちです。しかし、実際には、部下が安心して話せる「場」をつくることこそ、上司側の課題です。

意見が出ないのは、上司の働きかけや雰囲気づくりが不足していることに起因している場合が多いのです。

部下の課題を“代行”してしまう構図

「やっておいて」と依頼したタスクを、部下が取り掛かる前に上司が手を出してしまう。あるいは、完了前に口を出して軌道修正してしまう。これでは、部下は「自分がやる意味」を見出せなくなります。結果として、行動も成長も止まってしまうのです。

今日からできる“課題の分離”アクションプラン

「場づくり」を自分の課題として認識する

1on1や会議では、上司がまず質問を投げ、沈黙を受け入れる姿勢を示すことが重要です。発言しやすい雰囲気を意識的に設計することで、部下の思考と対話が動き始めます。

課題を具体化し、分けて共有する

たとえば、「提案資料の改善はあなたの担当」「優先順位の調整は私がフォローする」といった形で、業務の中で役割と責任を言語化し、お互いの行動領域を明確にして共有します。

振り返りの主導権を部下に持たせる

業務終了後やプロジェクトの節目に、「なぜその判断をしたのか?」「何を学んだのか?」を部下自身に語らせる場を設けます。上司はフィードバック役に徹することで、学習と成長の循環が生まれます。

まとめ:今日から実践できる「課題の分離」の第一歩

リーダーとして、部下に成長してほしい、主体的に動いてほしい。
そう願うのは当然のことですし、それ自体は間違っていません。

しかし、部下の主体性は「願うだけ」で育つものではありません。

むしろ、その芽を摘んでしまっているのは、他でもない私たちリーダー自身であることに気づくことが、最初の一歩です。

コーチングの本質とは、「相手を変えること」ではなく、自分の関わり方を変えることで、相手が自ら変わる“環境”をつくること。
そのために必要なのが、「課題の分離」という視点です。

今すぐ始められる、3つの小さなアクション

  1. 「これは誰の課題か?」を自問する習慣を持つ
  2. 部下に「任せたこと」は、任せきる勇気を持つ
  3. 週1回、1on1などで「課題の分離マップ」を書いてみる

主体性のある人材を育てたいなら、まずはリーダーが“手放す”こと。
課題の分離は、単なる理論ではなく、リーダー自身が変わる覚悟を持つ実践の入り口です。

今日からぜひ、あなたのリーダーシップにこの視点を取り入れてみてください。
きっと、部下との関係性も、組織の動き方も、少しずつ変わっていくはずです。

モチベーションを意識するから、部下のモチベーションは上がらない

リーダーシップに関する理論やノウハウは数多く存在します。しかし、実際にチームを率いる立場になったとき、多くのリーダーが直面するのは、「人は思った通りには動かない」という現実です。


丁寧に説明しても納得されない、指示した通りにやってくれない、本人は頑張っているつもりでも成果が出ない……。そんな悩みにぶつかるたび、リーダーは自分のやり方に自信を失ったり、部下との距離感に悩んだりします。


そんなときこそ、リーダーが立ち返るべき問いがあります。
「リーダーは何を果たすべき存在なのか?」
リーダーの「役割」と「責任」を明確にし、どこに視点を置くべきかを見直すことで、ブレない行動が取れるようになります。人の内面からくる様々な反応に、揺れ動く視点をあるべき所に戻し、成果を出すことができるようになると思います。

リーダーの「役割」とは何か

リーダーの役割は、大きく2つに集約できます。


1つ目は、部下の成長を促進することです。部下一人ひとりの可能性を引き出し、主体的な行動が生まれる環境をつくる。教えるだけでなく、考えさせ、任せ、失敗を糧にさせる。成長のきっかけを提供することが、リーダーに求められる役割です。


2つ目は、他のチームや部署と連携し、組織全体の成果を最大化することです。自分のチームだけの視点に偏らず、全体を俯瞰しながら、部門間の連携をスムーズに進めていく。その橋渡し役になるのも、リーダーの大事な仕事です。


どちらも「人を動かす」ことが求められる場面ではありますが、重要なのは「どう動かすか」ではなく、「動きたくなる土壌をどう整えるか」又は「動かなくてはならないと思う環境をどう整えるか」という視点です。

リーダーの「責任」とは何か

一方で、リーダーに課される最も重い責任は、「成果を継続的に出すこと」にあります。
過程がどれほど丁寧でも、部下との関係がどれほど良好でも、最終的に組織の成果が出なければ、リーダーの評価は上がりません。


このとき、リーダーは避けがたい選択に直面します。
それは、「部下の感情」と「成果」のどちらを優先するか、という問いです。


本音を言えば、部下の気持ちに寄り添いたい。納得してもらってから動いてほしい。無理をさせたくない――。そう思うのが自然です。


しかし、リーダーが担っているのは「感情の調整」ではなく「成果の達成」です。
たとえ部下が不満を口にしようとも、成果につながる行動を推進し、それが結果に結びつけば、それでよいのです。


ここに、リーダーとしての覚悟が求められます。
感情に振り回されず、成果という「責任」に立脚して意思決定を行う。
リーダーとは、その重さを引き受ける立場だと考えます。

人はブラックボックスである

では、なぜ部下の感情や思考に深入りしてはいけないのでしょうか?
それは、人の内面は他者からは見えない=ブラックボックスだからです。


動機づけやモチベーション、性格や価値観といったものは、リーダーが直接触れることはできません。推測することはできても、確実な理解や操作はできない。


それどころか、無理に見ようとしたり、変えようとしたりすると、信頼関係が壊れたり、反発が生まれたりする危険すらあります。


だからこそ、リーダーは「人はブラックボックスである」という前提に立つ必要があるのです。
内面に介入するのではなく、その外側で起こる反応=行動と成果に注目する視点が重要になります。

リーダーが見るべきは「インプット」と「アウトプット」

では、ブラックボックスと適切に向き合うために、リーダーは何を見ればよいのでしょうか?
答えはシンプルです。
「インプット」と「アウトプット」を見ること。


インプットとは、リーダー自身の言動や関わり方のことです。
具体的には、どんな指示を出したのか、どんな声かけをしたのか、何を期待として伝えたのか、といったことです。


アウトプットは、部下の行動や成果、反応です。指示にどう応えたか、実際に何を行動したか、成果として何が出たか。


人の内面は見えませんが、「何を与えて、何が返ってきたか」は観察できます。
この因果関係に注目することで、リーダーは自分のインプットを変化させながら、より良いアウトプットを引き出していけるのです。


そして、その因果を冷静に把握するために欠かせないのが「インディケーター(指標)」です。
感情や印象に頼らず、行動と成果の実態を測る“ものさし”を持つこと。これが、リーダーの視点を曇らせない鍵になります。

成果を重視することは冷たいことではない

ここまで読んで、「感情より成果を重視するなんて、冷たい」と感じた方もいるかもしれません。
ですが、よく考えてみてください。


組織として成果が出せなければ、その組織の存在意義が問われます。最悪なケースでは解散やリストラも起こります。


それ以上に、いまできることだけを許し、成果を生み出す行動が止まれば、部下の成長も止まります。
部下が「上司は自分たちの事を、わかってくれた」と満足しても、何も変わらなければ成果は出ません。


むしろ、成果に向けた行動を促すことこそが、部下の成長を後押しすることにつながるのです。
その先にこそ、部下自身の充実感や自信、成長の実感があります。
リーダーが成果にこだわるのは、冷たさではなく、「真の意味での優しさ」であると、私は考えます。

見える指標でマネジメントする

成果を出すリーダーにとって、インディケーター(見える指標)は唯一の「管理可能な情報源」です。
人の感情やモチベーションは測れませんが、行動や成果は測れます。リーダーはそれを見ずして、マネジメントすることはできません。


たとえば、以下のような指標が事例としてあげられます。
・行動指標:日報の提出率、報告頻度、会議での発言数、改善提案の件数、訪問数、顧客への提案数
・成果指標:案件の進捗率、売上実績、納期遵守率、エラー件数、顧客満足度スコア
・姿勢指標:フィードバックに対する反応速度、自主的な学び・申告内容、振り返り回数
重要なのは、「何を測るかを意図的に選び、測り続けること」です。


インディケーターの選択は、リーダーの価値観と視点そのものを映し出します。
逆に言えば、どんな指標を持つかで、チームの行動が変わるのです。


そして、リーダーはインディケーターをもとにインプットを調整します。
たとえば「会議で発言が少ない」という指標に着目したなら、「誰が発言しやすい空気を作れていないか?」「問いかけの質はどうか?」といった改善ができるでしょう。


こうした修正は、感覚ではなくデータにもとづいて冷静に判断できる点がポイントです。


結論として言い切ります。

リーダーは、インディケーターを選び、使いこなすことでしか成果を出すことはできません。
経験や直感は大切ですが、それは指標で裏付けられてこそ意味を持ちます。
インディケーターは、リーダーにとって“見るべき現実”を定める羅針盤なのです。

まとめ

リーダーの役割は、部下の成長を促進し、チームを横断して成果を最大化すること。
リーダーの責任は、成果を出し続けることにある。


人はブラックボックス。だからこそ、内面を変えようとせず、インプットとアウトプットに目を向ける必要がある。


感情に共感することは大切だが、優先すべきは「成果」である。
なぜなら、成果は部下の成長と充実をもたらすものだから。


見えるインプットとアウトプット、そしてインディケーターによる計測と判断。
この3つの視点を軸にすれば、人の内面に深入りせずとも、チームは動き、成果は上がります。


成果とは、偶然ではなく「見えるものを見て、変えられるものを変える」ことの積み重ねです。
リーダーが見るべきものは、感情の奥ではなく、数字と行動の変化です。


リーダーとは、人の中身を変えるのではなく、成果につながる行動を引き出す関わり方を探り続ける存在である。
この視点を持つことで、あなたのリーダーシップは、より揺るぎないものになると考えます。