企業内でコーチングを効果的に行い、気持ちよく成果を引き出すための方法
成果を早く出したい…成果を出せる人材に育ってほしい…。多くの経営者やマネジャーが、そんな「相手を変えたい」という思いに突き動かされ、つい部下にアドバイスや圧力をかけてしまいがちです。しかしこの「変えてやろう」とする姿勢こそが、コーチングを遠ざける最大の障害になっているのです。
コミュニケーションが圧力に変わり、信頼が揺らぎ、結果的に成果も成長も遠ざかってしまう。このジレンマに直面した時にこそ、「相手の成長は本人が主体的に選択してこそ、成果は生まれる」という本質的な視点が求められます。
成果と成長~企業のジレンマを乗り越えるために
企業としては、「すぐ結果がほしい」「部下には早く成長してほしい」という期待があります。しかし、その一方で、コーチングに必要な「待つこと」「対話に時間を使うこと」は、短期成果を求める構造においては後回しにされやすいのが現実です。
このジレンマを実感するのが、中小製造業のA社の事例です。A社長は、「もっとスピード上げてくれ」と部下に強く求め、具体的な指示と細かい承認作業を続けた結果、一時的に業績は上がったように見えました。しかしじわじわと部下からは「指示を待つだけの人たち」が増えてしまいました。そこで「あなた自身ならどう変えたい?」と質問に変えてみると、部下から自発的な改善案が出てきて、品質も納期も同時に向上したのです。
短期成果を追うあまり、本質的な成長を犠牲にしてしまうことのないよう、「成果と成長を両立させるための対話」をいかに組織に定着させるかが、今まさに求められています。
「相手を変える」の罠:失敗の原因と見直し
「もっとやる気を出して」「考え方を改めてほしい」~と強く願うとき、つい圧が対話にのしかかってしまいます。この圧が強まると、部下は「やらされ感」や「拒否感」を抱いてしまい、信頼関係が揺らぎ、結果として学習も停滞してしまうことになります。
心理学的には、自己決定理論(Self-Determination Theory, Deci & Ryan)が示すように、人は「自分で選び、意思を持って行動するときにこそ、最もパフォーマンスを発揮しやすい」と説かれています。
この視点を持つことで、「相手を変える」という発想を「相手が自ら変わりたくなる環境を作る」というコーチングの本来の姿勢に変えていくことが重要な視点になります。
何もしない勇気の本質:アドバイスは不要、立ち止まって聞く力
多くのマネジャーは、自らの知識や経験を用いて部下を指導することこそ、マネジメントの任務であり役割だと考えがちです。
たしかに、経験前提のアドバイスや判断力が必要な場面も少なくありません。しかし、コーチングにおいてはめむしろ「自ら動かずに部下に考えさせる」ことのほうが優先されます。
これは、一見すると「何もしない上司」に見えることもあるかもしれません。実際、周囲からは「放件している」「部下任せだ」と評されるリスクもあるでしょう。
しかしここにこそ、勇気が必要なのです。
相手を信じ、やる気と成長力を信頼して「話さず」「口出ししない」。上司の存在感や有用感を控えることは、ある意味「我慢」を要する行為でもあります。
これは放置ではありません。「見守る」「相談を待つ」「真に助けが必要なときにだけ手を展べる」という、高度なマネジメント技術です。
「何もしない勇気」は、何もしないことを行動で選択し続ける、最も難易度の高いリーダーシップの形とも言えるでしょう。
まとめ:「変えよう」から「変わるのを待つ」へ
「相手を変えてやろう」とする姿勢が、コーチングの本質を損ねてしまいます。部下の成長は、本人が自ら考え、選び、行動してこそ本物になります。
そのためには、マネジャー自身が「何もしない勇気」を持ち、自分の存在感を控え、部下が考え行動する空間を守ることが不可欠です。
今日から実践できる小さな一歩として、1on1の場面でアドバイスを飲み込み、「あなたはどう考える?」という一言を意識してみてください。
“信じて、待つ”。この姿勢こそが、これからのリーダーに最も必要な資質ではないでしょうか。短期的な視点ではなく、少し長い目で見れば、“信じて待つ”ことが、結局は早道であることに気づくと思います。