あなたは、失敗から学べていますか?

多くの人は、「過去の言動や体験が今の自分を形作っている」と信じています。これは一見正しいように思えますし、実際に多くのリーダー研修や自己啓発書でも「過去を振り返り、そこから学ぶ」ことが重視されています。しかし、そこから本当に変化が生まれているでしょうか? 過去を振り返るだけで、なぜか行動が変わらない、同じような問題を繰り返してしまう──そんな経験はありませんか?

この問題の鍵を握るのが、アルフレッド・アドラーが提唱した「目的論」の視点です。アドラー心理学では、人間の行動はすべて「ある目的」に向かって選ばれていると考えます。つまり、過去の出来事によって自動的に反応したのではなく、「その目的を果たすために、その行動を選んだ」と見るのです。

たとえば、部下に強く当たってしまった過去の自分を振り返るとき、「忙しかったから」「余裕がなかったから」と原因を挙げがちです。しかし目的論的に見ると、「自分の立場を守るため」「指導力を示したかった」「評価されたいと思った」などの目的があって、強い言動を“選んだ”ことになります。

この見方を取り入れると、過去を単に悔やむだけではなく、「なぜそうしたのか」を深く掘り下げることができます。そして、今の行動を変える鍵もそこに見えてきます。つまり、「過去の目的」に気づくことが、「未来を変えるための行動選択」につながるのです。

アドラー心理学は、人間を「全体としての存在(ホリスティック)」としてとらえ、思考・感情・行動を一体のものと見なします。そして「創造的自我」によって、自らの目的を意識的に選び、人生を方向づけていけると考えます。これはまさに、リーダーに求められる力そのものです。

たとえば、ある中小企業の経営者が、過去に「社員の失敗を厳しく叱責することで組織の秩序を保ってきた」と振り返ったとします。彼は原因として「自分が厳しく育てられたから」と語っていましたが、目的論的に分析すると、「組織が崩壊する不安を抑えるため」「自分がリーダーとして認められたいから」という目的が見えてきました。

この目的に気づいたとき、彼は初めて「信頼を土台にした組織作り」という新たな目的を選ぶことができました。そこからは、社員との対話を重視し、責任の共有を進めるリーダーシップへと変化していきました。

では、私たちはどうすればこの目的論を日々のリーダーシップに活かせるのでしょうか。

まず第一に、「過去の言動の目的を問い直す」ことです。最近の失敗や後悔を伴う行動を振り返り、「なぜそのような行動を取ったのか?」を何度も問い直してみてください。初めは「忙しかったから」などの原因が浮かびますが、さらに深く掘ると「認められたかった」「支配したかった」「安心したかった」などの目的が見えてきます。

次に、「今の行動を、未来の目的から選ぶ」習慣を持つことです。「自分はどんなリーダーでありたいのか」「どんな組織をつくりたいのか」という未来のビジョンを明確にした上で、その目的に沿った言動を選ぶのです。たとえば「部下の自立を促すリーダーでありたい」と思うなら、日々の指示も一方通行ではなく、問いかけや選択肢の提示を増やしていくことが効果的です。

そして第三に、「目的をチームと共有する」ことです。リーダー自身の目的が明確になると、それをメンバーと共有することで、組織としての一体感が生まれます。たとえば「お客様にとって一番頼れる存在になる」という目的を掲げたチームは、日々の業務の中でも自然と助け合いや改善の動きが生まれやすくなります。

目的論は、単なる理論ではなく、リーダーの思考と行動を変える強力な実践フレームです。原因論から抜け出し、「なぜこの行動を選んだのか」という目的に注目することで、過去に縛られず、未来に向けた選択が可能になります。

今、あなたが取っている行動も、必ず何らかの目的によって選ばれています。その目的を明らかにすることで、あなたはもっと自由に、もっと力強く未来を創り出していけるはずです。

ぜひ、今日から「自分の目的は何か?」を問いかけてみてください。その一歩が、あなたのリーダーシップを次のステージへと導く鍵になるでしょう。