モチベーションを意識するから、部下のモチベーションは上がらない

リーダーシップに関する理論やノウハウは数多く存在します。しかし、実際にチームを率いる立場になったとき、多くのリーダーが直面するのは、「人は思った通りには動かない」という現実です。


丁寧に説明しても納得されない、指示した通りにやってくれない、本人は頑張っているつもりでも成果が出ない……。そんな悩みにぶつかるたび、リーダーは自分のやり方に自信を失ったり、部下との距離感に悩んだりします。


そんなときこそ、リーダーが立ち返るべき問いがあります。
「リーダーは何を果たすべき存在なのか?」
リーダーの「役割」と「責任」を明確にし、どこに視点を置くべきかを見直すことで、ブレない行動が取れるようになります。人の内面からくる様々な反応に、揺れ動く視点をあるべき所に戻し、成果を出すことができるようになると思います。

リーダーの「役割」とは何か

リーダーの役割は、大きく2つに集約できます。


1つ目は、部下の成長を促進することです。部下一人ひとりの可能性を引き出し、主体的な行動が生まれる環境をつくる。教えるだけでなく、考えさせ、任せ、失敗を糧にさせる。成長のきっかけを提供することが、リーダーに求められる役割です。


2つ目は、他のチームや部署と連携し、組織全体の成果を最大化することです。自分のチームだけの視点に偏らず、全体を俯瞰しながら、部門間の連携をスムーズに進めていく。その橋渡し役になるのも、リーダーの大事な仕事です。


どちらも「人を動かす」ことが求められる場面ではありますが、重要なのは「どう動かすか」ではなく、「動きたくなる土壌をどう整えるか」又は「動かなくてはならないと思う環境をどう整えるか」という視点です。

リーダーの「責任」とは何か

一方で、リーダーに課される最も重い責任は、「成果を継続的に出すこと」にあります。
過程がどれほど丁寧でも、部下との関係がどれほど良好でも、最終的に組織の成果が出なければ、リーダーの評価は上がりません。


このとき、リーダーは避けがたい選択に直面します。
それは、「部下の感情」と「成果」のどちらを優先するか、という問いです。


本音を言えば、部下の気持ちに寄り添いたい。納得してもらってから動いてほしい。無理をさせたくない――。そう思うのが自然です。


しかし、リーダーが担っているのは「感情の調整」ではなく「成果の達成」です。
たとえ部下が不満を口にしようとも、成果につながる行動を推進し、それが結果に結びつけば、それでよいのです。


ここに、リーダーとしての覚悟が求められます。
感情に振り回されず、成果という「責任」に立脚して意思決定を行う。
リーダーとは、その重さを引き受ける立場だと考えます。

人はブラックボックスである

では、なぜ部下の感情や思考に深入りしてはいけないのでしょうか?
それは、人の内面は他者からは見えない=ブラックボックスだからです。


動機づけやモチベーション、性格や価値観といったものは、リーダーが直接触れることはできません。推測することはできても、確実な理解や操作はできない。


それどころか、無理に見ようとしたり、変えようとしたりすると、信頼関係が壊れたり、反発が生まれたりする危険すらあります。


だからこそ、リーダーは「人はブラックボックスである」という前提に立つ必要があるのです。
内面に介入するのではなく、その外側で起こる反応=行動と成果に注目する視点が重要になります。

リーダーが見るべきは「インプット」と「アウトプット」

では、ブラックボックスと適切に向き合うために、リーダーは何を見ればよいのでしょうか?
答えはシンプルです。
「インプット」と「アウトプット」を見ること。


インプットとは、リーダー自身の言動や関わり方のことです。
具体的には、どんな指示を出したのか、どんな声かけをしたのか、何を期待として伝えたのか、といったことです。


アウトプットは、部下の行動や成果、反応です。指示にどう応えたか、実際に何を行動したか、成果として何が出たか。


人の内面は見えませんが、「何を与えて、何が返ってきたか」は観察できます。
この因果関係に注目することで、リーダーは自分のインプットを変化させながら、より良いアウトプットを引き出していけるのです。


そして、その因果を冷静に把握するために欠かせないのが「インディケーター(指標)」です。
感情や印象に頼らず、行動と成果の実態を測る“ものさし”を持つこと。これが、リーダーの視点を曇らせない鍵になります。

成果を重視することは冷たいことではない

ここまで読んで、「感情より成果を重視するなんて、冷たい」と感じた方もいるかもしれません。
ですが、よく考えてみてください。


組織として成果が出せなければ、その組織の存在意義が問われます。最悪なケースでは解散やリストラも起こります。


それ以上に、いまできることだけを許し、成果を生み出す行動が止まれば、部下の成長も止まります。
部下が「上司は自分たちの事を、わかってくれた」と満足しても、何も変わらなければ成果は出ません。


むしろ、成果に向けた行動を促すことこそが、部下の成長を後押しすることにつながるのです。
その先にこそ、部下自身の充実感や自信、成長の実感があります。
リーダーが成果にこだわるのは、冷たさではなく、「真の意味での優しさ」であると、私は考えます。

見える指標でマネジメントする

成果を出すリーダーにとって、インディケーター(見える指標)は唯一の「管理可能な情報源」です。
人の感情やモチベーションは測れませんが、行動や成果は測れます。リーダーはそれを見ずして、マネジメントすることはできません。


たとえば、以下のような指標が事例としてあげられます。
・行動指標:日報の提出率、報告頻度、会議での発言数、改善提案の件数、訪問数、顧客への提案数
・成果指標:案件の進捗率、売上実績、納期遵守率、エラー件数、顧客満足度スコア
・姿勢指標:フィードバックに対する反応速度、自主的な学び・申告内容、振り返り回数
重要なのは、「何を測るかを意図的に選び、測り続けること」です。


インディケーターの選択は、リーダーの価値観と視点そのものを映し出します。
逆に言えば、どんな指標を持つかで、チームの行動が変わるのです。


そして、リーダーはインディケーターをもとにインプットを調整します。
たとえば「会議で発言が少ない」という指標に着目したなら、「誰が発言しやすい空気を作れていないか?」「問いかけの質はどうか?」といった改善ができるでしょう。


こうした修正は、感覚ではなくデータにもとづいて冷静に判断できる点がポイントです。


結論として言い切ります。

リーダーは、インディケーターを選び、使いこなすことでしか成果を出すことはできません。
経験や直感は大切ですが、それは指標で裏付けられてこそ意味を持ちます。
インディケーターは、リーダーにとって“見るべき現実”を定める羅針盤なのです。

まとめ

リーダーの役割は、部下の成長を促進し、チームを横断して成果を最大化すること。
リーダーの責任は、成果を出し続けることにある。


人はブラックボックス。だからこそ、内面を変えようとせず、インプットとアウトプットに目を向ける必要がある。


感情に共感することは大切だが、優先すべきは「成果」である。
なぜなら、成果は部下の成長と充実をもたらすものだから。


見えるインプットとアウトプット、そしてインディケーターによる計測と判断。
この3つの視点を軸にすれば、人の内面に深入りせずとも、チームは動き、成果は上がります。


成果とは、偶然ではなく「見えるものを見て、変えられるものを変える」ことの積み重ねです。
リーダーが見るべきものは、感情の奥ではなく、数字と行動の変化です。


リーダーとは、人の中身を変えるのではなく、成果につながる行動を引き出す関わり方を探り続ける存在である。
この視点を持つことで、あなたのリーダーシップは、より揺るぎないものになると考えます。

行動を変えたいのなら「視点」を変える

「問題が発生したのと同じ次元では、その問題を解決することはできない。」
これは、物理学者アルベルト・アインシュタインの有名な言葉です。問題の本質は、多くの場合、出来事そのものにあるのではなく、「その出来事をどのように見ているか」に隠れています。


この考え方は、ビジネスやマネジメントの現場でも非常に示唆に富んでいます。特にリーダーの仕事においては、「視点」に注目することが極めて重要です。なぜなら、メンバー一人ひとりの行動や判断は、「何をどう見ているか」によって決まるからです。


行動を変えるには、視点を変える必要があります。そしてその変化を導けるのが、リーダーという存在だと考えます。


この記事では、「リーダーの仕事とは、チームの視点を変えることである」というテーマのもと、視点がどのように行動や成果に影響するのかを示していきます。

行動の選択は、どの視点で物事を捉えるかで決まる

冒頭で示したように、人の行動は「事実」そのものではなく、「その事実をどう捉えたか」で決まります。


たとえば、営業目標を達成できなかったとき、「自分の努力が足りなかった」と考える人もいれば、「商品力が低いから仕方ない」と感じる人もいます。どちらの捉え方をするかで、その後の行動は大きく変わります。


前者の視点では、「次は工夫してみよう」「お客さまの声をもっと聞こう」といった改善行動が生まれます。一方、後者の視点では、他責になり、「どうせ頑張っても無理だ」といった諦めが先に立ちやすくなります。


つまり、私たちは現実に反応しているのではなく、「現実をどう見ているか」に反応しているのです。
このように、視点が変われば行動が変わる。だからこそ、リーダーは「部下の行動を変えたい」と思ったときには、まず「その人の視点」に注目する必要があります。

目的を達成するための行動の選択は、現状の捉え方で決まる

「なぜ、この行動を選んだのか」という問いに対し、人はたいてい「今の状況ではこれしかない」と答えます。


これは裏を返せば、「現状の捉え方」によって、選べる行動の幅が決まってしまっているということです。


たとえば、ある部下がなかなか相談に来ない、報告が遅れる、といった行動を取っていたとします。リーダーが「やる気がないのだろう」「主体性が足りない」と決めつけると、その部下への関わりは叱責や注意中心になりがちです。


しかし、ここで視点を変えて、「この部下は、もしかすると自分に対して話しかけにくさを感じているのではないか」「過去のやり取りで委縮させてしまったのではないか」と捉え直してみると、まったく違う現実が見えてきます。


実際に振り返ってみると、以前の会話で無意識に強い口調で返していたり、否定的な反応をしていたことに気づくかもしれません。そこで、リーダーの方から歩み寄ることで、部下の行動は徐々に変わっていきます。


このように、リーダー自身が視点を切り替えることで、部下の行動の“意味”を理解できるようになり、関係性の改善や信頼構築につながります。


このように、目的を達成するためには、現状の捉え方=視点が重要なカギになります。視点が固定されたままだと、行動はいつも同じになり、成果も変わらないのです。


リーダーは、チームが「現状をどう捉えているか」を常に観察し、必要に応じて視点の転換を促すことが求められます。

同じ視点で捉えていて、問題が解決しないなら視点を変える

問題が長期間にわたって解決しないとき、多くの人は「もっと努力すべきだ」「やり方がまずかった」と考えます。


もちろん努力や方法論の見直しも重要ですが、それ以前に考えるべきなのは「そもそも私たちはこの問題をどう見ているのか」という視点の部分です。


心理学では「認知の枠組み(フレーム)」という考え方があります。これは、私たちが物事を理解し、意味づける際の“ものさし”のようなものです。


たとえば、「売上が下がっている」という事実があったとして、「チームのやる気が低いからだ」と捉えるのか、「市場が変化しているのに対応できていないからだ」と捉えるのかで、打つべき施策は大きく異なります。


同じ枠組みのままで、何度も同じ問題にぶつかっているなら、それは「行動の限界」ではなく、「視点の限界」かもしれません。


リーダーが持つべき問いは、「もっと頑張るにはどうすればいいか」ではなく、「この問題を別の角度から見たら、何が見えるか」です。

対立は、各々の視点のぶつかり合いである

職場で起こる対立の多くは、価値観や性格の違いというより、「物事の見え方の違い」から起こります。


たとえば、部下Aは「スピード重視」、部下Bは「丁寧さ重視」。この二人が一緒にプロジェクトを進めると、「なぜそんなに急ぐの?」「なぜそんなに時間をかけるの?」という不満がぶつかり合います。


これは、どちらが正しい・間違っているという話ではありません。あくまで「見ている景色」が違うだけなのです。


リーダーがやるべきことは、この対立を解消するために「共通の目的」を再確認させること。そして、各々の視点に意味があることを認めながら、視点の“重なり”を探すことです。


この作業には時間がかかるかもしれません。しかし、それを怠ると、根本的な誤解が解けないまま、表面的な折衷案だけで物事を進めてしまうリスクがあります。

葛藤も自分、または組織固有の視点のぶつかり合い

「やりたいけど、できない」「進めたいけど、不安がある」――こうした“葛藤”もまた、視点の衝突によって生まれます。


たとえば、ある社員が「新しい提案をしたい」と思っているのに、なかなか行動に移せないとします。その内面では、「自分のアイデアには価値がある」という視点と、「失敗したら評価が下がる」という別の視点がぶつかっているのです。


組織全体でも同じことが起きます。「変革すべきだ」と感じながらも、「今の仕組みを壊すのは怖い」といった葛藤は、視点の複数性から生じています。


リーダーは、このような葛藤の背景にある「対立する視点」を丁寧に言語化し、バランスのとれた捉え方に導く必要があります。


具体的には、「失敗しても挑戦が評価される風土」をつくったり、「どんな視点も一度は受け止める対話の場」を設けたりすることで、葛藤を前向きな力に変えることができます。

おわりに:視点を変えることで、チームは変わる

リーダーは、チームを先導すると同時に、チームの“見方”を変える存在でもあります。
視点を変えることは、価値観を揺るがす行為でもあるため、決して簡単ではありません。抵抗があるのも当然です。

しかし、視点を変えることでしか、乗り越えられない壁があるのもまた事実です。
行動を変えるには、まず視点を変える。


チームを変えたいなら、チームが世界をどう見ているかに寄り添い、その見方を少しずつ拡張していくこと。それこそが、リーダーに求められる最も繊細で重要な仕事です。